「落ちるまでは俺が作るよ」

「すまないサノト」

「べつにいいよー」

どうせずっと絵を描いているだろうと踏んでいたので、夕飯はもともと、サノトが作る気でいたのだ。何を作るかも既に想定が済んでいる。

「それじゃ、すぐに作るからお前はソファで待ってろよ」

「はーい」

玄関前の廊下に置き去りにされていた食材の荷物を手分けして運びながら、リビングに戻る。

その最中。

「あ、そうだ」オギの店でパンを買った事を思い出す。

「アゲリハー。オギさんの店でパン買ったんだけど、夕飯の前に食べる?」

「食べるたべる」

「そう?じゃあすぐ用意するね」

「はーい」

冷蔵庫に食材を仕舞い終えると、アゲリハはリビングのソファへ。サノトはキッチンに残って、買ってきたパンを器に乗せる。

ついでに、最近覚えたこの国式の珈琲(といっても、淹れ方一緒だけど)を淹れ、砂糖をたっぷり入れると、パンとそれをビングに居るアゲリハの元まで運んだ。

「ほら。これも」カップを差し出すと。「わーい」アゲリハがにこにこ笑ってそれを受け取る。

「うーん。至りつくせり。私の彼氏は万能だな」アゲリハが手放しでほめるので。

「どういたしまして」嬉しくてはにかんでしまった。



画商のガィラが次に訪れてきたのは、前に訪れた日からおよそ十五日後のことだった。

二日前に電話が来て、そして今日の朝早くから訪れた彼は、呼び鈴を押して自身の来訪を告げるなり、「おはようございます。約束の絵を借りに参りました」と言った。

「おはようガィラ。さっそく見るか?」

「ええ。ぜひ」

挨拶もそこそこに、二人はアトリエのある二階へと昇って行った。

そんな二人の後を、サノトも好奇心からついていく。

その途中。

「そういえばガィラ。あれからあの絵に手を加えたんだ」

アゲリハが思い出したように言って。

「さようですか。それは楽しみです」

ガィラが楽しそうに返答する。

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