背格好は……座っている上に背中と後頭部しか見えないので、今のままでは分からない。

もう少し扉を開いて、自分の身体をリビングの中へ傾けると。「ただいまー……」もう一度、帰りの挨拶を零す。

すると、アゲリハがぱっとこちらを向いて、すぐに目が合った。

「サノト!おかえり!」立ち上がったアゲリハがこちらに近づいてくる。

彼はサノトの目前まで来ると、こちらの肩を親し気に引き寄せ、「ガィラ。彼がサノトだ」客人の方に声をかけた。

カップを置く音と共に、客人がサノトの方へ振り返った。

客人は、髪の色も肌の色も白い、三十半ばほどの知的そうな男だった。

軽く会釈をしかけて……やめる。トーイガノーツの挨拶は片手を上げるんだと、アゲリハに以前教えてもらったのを思い出したのだ。

改めて片手を上げると、相手がにっこり微笑み、同じように片手を上げた。

「サノト、こっちだ」アゲリハに促され、客人の方へと連れられる。

二人並んでソファに腰かけると、相手がより近くなった。

「今、彼にサノトのことを話していたんだ。最近恋人が出来て同棲しているんだと」

アゲリハが客人に振り返り、「はじめまして」客人がサノトに振り返る。

「サノト君。で、宜しかったでしょうか?」

「あ、はい。初めまして」

「私はガィラと申します。どうぞお見知りおきを」

そう言って、彼が再び片手を上げる。つられてサノトも片手を上げた。

それから、ふと、彼の膝に乗せられているものに気づき、手を上げたまま視線をそこに落とした。

サノトの目線に気づいたらしい相手が、「ああ」と言って、それを両手でうやうやしく、掲げて見せた。

それは、アゲリハが以前描いていた絵のキャンバスだった。

「サノト君。私は今日、これを受け取りに来たんですよ」

「ガィラは画商なんだ」

「がしょう……」聞きなれない単語だが、かろうじて分かる。絵を売り買いする人のことだ。それ以上は分からないけれど。

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