「よっし!」行き成り立ち上がり、「私はしばらくアトリエにいる!」と言って、二階にバタバタと駆け上っていってしまった。
「はいはい。あんまりこんつめるなよー」
消えて行った人の姿に手を振って、ふうと息を吐く。
……ここ最近覚えたのだが、アゲリハは時折、自宅のアトリエにこもる事がある。
なにか突然、振ってきたり湧いてきたりするものがあるらしくて。そういうものを掴んだ時、アゲリハはとじこもって絵を描き始めるのだった。
まだ短い同棲生活の中で、このようなパターンを3、4度見かけていた。
はじめの内はものすごく驚いていたサノトだったが、5度目にもなれば慣れた物だ。
アトリエの扉が開いて、そして閉まる音を聞き届けると、サノトはキッチンに入って二人分の朝食を作り始めた。
アゲリハは、とじこもるとまったく下りてこなくなるし、下りてこいと言っても「うん」とか「そうだな」と生返事をするばかりで結局下りてこないので、三度目の籠城からは、食べやすいものを作ってアトリエに直接差し入れるようになった。
アトリエの適当な机に作った料理を置いておけば、その内皿の上が空になっているのだ。だから、サノトは適時、それを繰り返していた。
――――アゲリハが籠城を始めてから20分後。
朝食が出来上がると、早速、差し入れにいくためサノトも二階に上がった。
アトリエに入ると、すぐ、キャンバスの前に座って絵を描くアゲリハの姿が目に入った。
アゲリハの手には、薄く広い木の板が握られていて。その上に色んな色の絵の具が乗せられていた。
それを、直接、もしくは混ぜたりしながら、アゲリハが筆にとって画布に乗せていく。
あんなどろっとしたものが、誰かの手にかかれば絵になるのだから。不思議なもんだなぁと見る度思う。
同時に、すごいなとも思う。
サノトが同じものを持たされたとて、あんな風に何かの形になることはないだろう。
新しい恋人の才能にあこがれを抱くのと同時に、ふと、自分の無趣味に切さなさを覚える。
26>>
<<
top