アゲリハがそちらに歩き寄って、話し込んでいる間、手持ち無沙汰になったサノトは、ふらふら、家具の森へとしずんでいった。
木目の美しい棚や真っ黒な食器。円形の机。不揃いな椅子の行列。などなど、家具とひとくちに行っても様々なものが陳列されている。
ふと、上を見上げた時。ガラスのように透き通った照明器具をいくつも見つけて視線を奪われた。
装飾の美しさにうっとり見とれていると。
「サノトー?どこだー?」サノトを探すアゲリハの声が聞こえて、「いまいく!」慌ててその場を離れた。
アゲリハの声がした方に向かうと、照明器具からベッドへと陳列場所が異動した。
アゲリハといえば、二列並んだベッドの群を、叩いたり、なでたりしているさなかだった。
サノトが近づくと、「ああ、サノト。こっちだ」振り返りざま手招きされた。
「さっき、店員に色々見せてもらったんだがな。私としては店頭に出ているこの辺りで選ぶのが良いんじゃないかなと思うんだ」
そう言って、手近におかれた二つのベッドをアゲリハが指さした。
どちらも、色合いが若干違う。というだけで、デザインも高さもほぼ似通るこしらえだ。無難と言えば無難だが。
「寝る時に使うものなんだから、こういう無難なやつがいいよね」
「私もそう思ったんだぞ」
「よし。じゃあこっちの色の濃い方にしようぜ」
「了解だぞ」
お互いの意見がすんなり一致し、ベッドの選択は滞りなく終わった。
ベッドは後日、店が車でアゲリハの家に届けてくれるとのことで。アゲリハがそのために必要な書類にサインをした。
目的は達成したのでこれでお仕舞い。かと思いきや。「せっかくだし、他に好きな家具があれば買っていいぞ」と勧められる。
「他か……。っていっても、家具なんて値段の安いものじゃないだろうし。次々に買ってもらっても気が引けるなぁ」
「気にするなサノト。ここで遠慮なく買ってもらえれば、私もサノトの国へ行った時、欲しいなと思ったものを遠慮なく言いやすくなる」
「あー……それもそうか」
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