「贅沢で結構だぞ。
だが、その手の菓子は保存がきかないし、効いたとしてもそれもう焼きたて作り立てじゃないって思ってたんだが」

「ぜいたくー」

「やかましい。
でだな。さっきサノトとばたーの話をしていてひらめいた。
材料をこっちに持ち込めばいいんだなと!」

「力説されるほどの話でもなかった」

「良い案だろう!」

「ごめん。俺甘いものそんなに好きじゃないから。その食いつきっぷりがよくわからない」

「甘いものが好きではないといったそばから、今お菓子が焼けたわけだが?」

オーブンにかけられていたお菓子の、甘く香ばしい香りがリビングに漂ってくる。

サノトは、焼き立ての香りに鼻先をむけながら、にっこり笑って言った。「焼きたては好きなんだよね」

アゲリハが呆気にとられてから、苦笑する。

「ぜいたくだな」



液状の油を使ったお菓子というのは、よく言えばさくさくしていて、わるく言えばぼそぼそしていた。

これはアゲリハの腕前どうこうではなく、使った油の違いなのだろう。

バターというのはすごいやつなんだなと、身近にあるもののありがたみを今更に感じた。

それはさておき。焼きたてのお菓子とはどうしてこうも美味いのか。さくさくとかぼそぼそとか関係なくとてもおいしい。

焼き立てのお菓子を食べながら、いれてもらった珈琲(白)をひらすら楽しむこと半刻。

お菓子をすっかり食べ終えると、食器とコップ片づけて、二階、書斎の片づけを開始した。

まず、手分けして棚の中から本をすべて取り出し、空になった本棚をアゲリハの寝室、入り切らなくなったところで一階へと運び込む。

再び書斎に戻って、取り出しておいた本を寝室と一階に移動させると、元々置かれていた机と椅子以外は、すっかり、何もない空き部屋になった。

「サノト。この机と椅子はどうする?私は寝室に別のものがあるから、邪魔なようなら処分しようか?」

「ううん。どっちも俺に使わせてよ。捨てるのもったいないし」

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