「おおー!すごい!」

「アトリエ」は雑多だった。

部屋の真ん中寄りに大きな台らしきものと、ぐちゃぐちゃになった絵の具が乱雑におかれている。

他には、スケッチブックと思しきものが床に落ちていたり、棚に詰め込んであったり。

部屋には、絵の具の匂いなのか、生臭いようなつんとくるような、けれど不思議と不快にならない香りが充満している。

壁と床の接地面には、アゲリハが描いたらしい絵があちこちに立てかけられていた。

どの絵も、美術番組で見かけるような仰々しい額などには入っていない。全部裸で、立てかけ方も適当だった。

描かれているのは、風景とか人とか物とか、色々だ。

絵のサイズもバラバラで、サノトの両手を広げたくらい大きなものもあれば、片手くらいしかない、小さなものもある。

とにかく、たくさんの絵に満ちたひと部屋だった。

「アゲリハって絵が好きなんだね」

「そうだな。ひとへや使うくらいは好きだぞ」

アゲリハが、手近に転がっていたスケッチブックを拾って、サノトに中身を見せてくれる。

ぱらぱらめくられるたび移り変わる絵は、どれもとても綺麗だった。

「すごいね」絵心というものにまったく触れずにここまできたサノトには、到底及びもつかない技術の世界。

「これ、仕事でやってるの?」

「趣味だ。
と、言いたいところだが、ひとり買っていくやつがいるな」

「上手いもんね。そりゃ買いたい人いるって」

「……うーん。アレが私の絵を買っていく理由は、絵の出来どうこうよりも……もっと変態じみているな」

「どういうこと?」

「いや。この話はまた今度にしよう。
それよりサノト。書斎を片付ける前にお茶を飲もうか」

寝かせておいた生地があるから、すぐにおやつが出来るぞと言われて、わーいやったーおやつだーと、素直に喜ぶ。

二階から降りてリビングに入り、ソファに座ってアゲリハお手製のお菓子が焼きあがるのを待っている途中。

ふと、「そういえばさ」疑問が湧く。

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