「友達はキスしないけどね」
「されたら困るぞ。付き合って早々浮気をするんじゃない」
「しないよ。されてすごく嫌だったから」
大事にするよ。アゲリハさん。
なんとなく呟いてみると、相手がきゅっと、赤くなった。かと思えば、ぎゅっと抱きしめられる。
たくましい胸板が顔面に押しつけられている。のに、香ってくるのは甘い匂いだ。
この人、俺より背も高いしガタイもいいのに、何か可愛いんだよなぁ。
そういえば、俺たちつきあってはみたものの、営みに突入したらどっちが男になるのかな?
あっちは告白するだけあってその手の経験がありそうだから、知識も経験もない俺が受け身になるのかな?
……さて、これからどうなることやら。
「サノト、私も大事にするんだぞー」
おっと。相手はまだ良い話の最中だ。
ひとりでやましいこと考えててすいません。
「ところでサノト。付き合うのなら改めてお願いしたい」
「え?なにを?」
「私の名前をそのまま呼んでくれ。そのほうがうれしい」
*
付き合い始めてから、アゲリハさん……もとい、アゲリハが、サノトにこう提案してきた。
いわく。「同棲しよう」とのことだ。
「いきなり?」デートもろくすっぽしてないのにそこから?という疑問を呈したが。
「そのほうが、私たちはきっと便利だ」と返される。なにが便利なんだろう。
「半同棲。といったほうが正しいかもしれんな」
「半?どういうこと?」
「お互いの住処を一緒くたにする。というよりはな、お互いの世界に、お互いの部屋を作って、お互いの世界で同棲出来るような形にしよう。という意味での提案なんだ」
「……あー、なるほど。
つまり、俺のアパートにアゲリハの部屋を作って、で、アゲリハのうちに、俺の部屋を作るわけか」
「その通りだ。私たちだからこそ出来る半同棲だ。おもしろいだろう?」
「うん。おもしろいな」
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