「おお。なかなかない体験だな」

「だろ。それで、なにぶん世話になった人だから俺、男は無理です。って言いにくくて。
……ああいや。違う。
違うんだ。俺、無理じゃないんだ。いや男は遠慮したかったんだけど。あの人はちょっとちがって。 だから、つきあうつきあわないを、どうしようかなって迷ってるんだ」

「え?交際するかどうかを迷ってるの?男はちょっとって話じゃないのこれ?サノトってバイの気あったんだ?」

「ない。と、思ってたんだけど。どうなんだろう。そもそも、俺が悩んでるのは、男とか女とかの話じゃないんだ。
ところで鈴木。俺は今から現金な話をしようと思う」

「げんきん?」

「とりあえずこれを見てくれ」

支離滅裂な説明の果てに、サノトが取り出したのはスマホだった。

画面を点灯させ、ロック画面を解除し、起動させたのは写真アプリ。

最近撮った例の人の写真を表示させて。「これなんだけど」鈴木にスマホごと渡してみせると。「うおっ!」友人は写真を見るなり驚いた。

「なにこれ!すげー美人なんだけど!」

「だろ!すげー美人だろ!」

「ちょっとありえないくらいの美人だな!
あ、分かった。これ合成写真だろ?アプリでさ、好きな芸能人の顔を入れまくって合成して、自分がもっとも好きな顔を作るっていうやつがあるんだ。それで作ったんだろ?」

「残念ながら実在するんだ」

「まじかよ。冗談じゃないんだ、この顔」

「うん。
で、俺、このひとに告白されたわけで」

「まじかよ。冗談だろ」

「残念ながら本当なんだ」

「まじかよ。悩むな」

「だろ!?悩むだろ!?」

「うん。……ああ、なるほど。確かに現金な話だな」

そうなのだ。

俺たちはさっきまで、「男に告白された」「そっか。俺ノンケなんですいませんって言おうぜ」という話をしていたのだが。

この顔をみるなり。「やべーな美人」「ここまで美人だと男とか女とか関係ねぇな」という話になっているのである。ようするに現金な話だ。

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