「うーん。厳密に言うと、時間薬ってわけじゃないかも」

「え?なに?」

トラウマと比較しても、より印象的かつ大変大きなことがありました。

なんと。異世界に行っちゃったんだよね、俺。

そんな経験しちゃえば、そりゃ、不倫だなんだ、些末な問題はいろいろ頭から吹き飛ぶよね。

……なんて事情は、行ったことも見たこともない人に説明するのは無理なので、かいつまんでみることにする。

「えーと。あの、あれだ。そう。傷心してた時にある人と知り合ってさ。その人がすごく良い人で、俺、色々世話になったんだよ。
彼女が戻ってきた時も、いろいろ慰めてくれてさー」

「へえ。そっか。良かったな」

「うん。それで……ここからが本題なんだけど」

「え?今まで結構重い話聞いてた気がするんだけど、あれ本題じゃなかったの?」

「うん。こっからなんだよ」

「そうなんだ。ちょっとまって。酒おかわりしよう。
すいませーん、追加お願いしまーす」

さっきと同じ店員を呼び止め、サノトは焼酎、鈴木は清酒を頼むと、それが届いたあたりで「実はさ」酒をなめながら本題を切り出した。

「その人に、ついこの前告白されたんだ」

「ああ、なーんだ。世話になったなんて言い方するから男かと思ったけど、女なんだ?
いいじゃないか。つきあっちゃえば?傷ついてる時に慰めてくれる女なんて最高だろ」

「いやそれがねぇ、男なんだよ」

「……ん?え。ん?」

「えーと。その、知り合ったひとっていうのがね。結構話題とか性格とか合うひとで、最近はお互いの家も行き来したりするくらい、結構仲良くなったんだけど。
その、相手の生まれが異せか……海外なんだ。それで、あっちは性的な価値観が割と広いらしいんだ。
だから、俺と知り合った当初くらいから気があって、俺に好かれるように頑張ってたんだって言われたんだ」

「おお。そうなんだ」

「だから、その人の感覚的には、俺たちそろそろそれっぽい雰囲気じゃないかなーってなってたらしくて。で、この前、告白ついでにキスされちゃってさ」

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