「私たちは世界が違うとはいえ、生き物としての形がほとんど同じなんだ。
生き物の形が同じならば、進化と経済成長は似通るはずだ。利便性が同じだからな。
だから、お互いが知っているものの7割くらいは、お互いの世界にあると思うぞ」

「なるほど。
ところですごく甘い香りだね」

「お菓子の香りのリップなんだ」

「へえ。変わった香りのリップ買うんだねアゲリハさん。趣味?」

「甘い香りは特に好んでいるというのもあるが、どちらかといえば面白がって買ってみた」

「へええ」

男に甘い香りをつけている。となれば「うげぇ」かもしくは「気取りやがって」と思うのが常だが、アゲリハさんにはそのどちらも感じない。

この人はなにをつけても嫌味がない。と思うのは、多分、香りと顔だちが比例している以上に、サノトが相手に感じている好感度が高いのだろう。

つい最近、色々と世話になったのは記憶に新しい。

アゲリハさんの唇をぼうっと眺めているうちに、ふと好奇心が湧いて。「アゲリハさん。それ貸してくれない?」相手の手にあるリップを強請って見た。

こんな機会はまたとないので、サノトも少しばかり、他人の趣味に足を踏み入れたくなってみた。

それに、つけてみて意外と様になれば、サノトも彼のように少しはおしゃれな人に近づけるだろう。なんて。

「ん?いいぞ」持っていたリップをアゲリハさんが差し出してくれる。

それを受け取りみずからの口にぬると、甘い匂いが直球で鼻についた。

……おえ。

これ、直接つけると香りがきつい。

甘いものは苦手だけど、香りくらいなら全然平気。と思っていたのに、間近でかぐと、これはちょっとえづく。

口を押えて、ちらりとアゲリハさんの口元を見る。このくらいで動じているようでは、ああなれる日はまだまだ遠い月日のことだろう。

「ありがと……」苦笑しながらリップを返そうとした時。

「大胆だなサノト」アゲリハさんが脈絡のないことをつぶやいた。かと思いきや。綺麗な顔が近づいてきて。

「ん、」唐突にキスをされた。そのままじっくり、1分半くらい。ずっとキスされる。

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