「あ!ちょっとアゲリハ!勝手にもってくるなよー!」
「出し惜しみするな。人に見てもらったほうが上達することもあるんだぞ」
そして結局、ガィラはその日、スケッチブックの中で一番出来の良い絵を、お小遣いくらいの金額で買っていった。
「あいつめ。早速手をつけていったな」アゲリハが呆れたように言う。
「気を使ってくれたんだよ……」でなければ、あんなど素人の絵を買っていくなんて考えられない。が、アゲリハといえば、「どうだかな」彼が去っていった玄関を見ながら、鼻を鳴らしている。
「そんな可愛い理由なら良いんだがな。あれは確実に青田刈りだろう。
まったく。昔からあいつはこと芸術に関しては頭がおかしい」
「どういうこと?」
「見る目がありすぎるのも考え物だということだ」
「ふうん??」どういう意味かな?結局分からなかったので、とりあえず流して置いた。
あくる日。
とても気持ちの良い天気だったので、アゲリハと一緒に「久しぶりにオギのところで朝食をとろう」という話になった。
二人で、さほど遠くないオギの店に赴くと、今日はいつもより、ことさら忙しそうに立ち回っているオギに「あ!二人ともおはようございますー!」と出迎えられる。
良く座る窓際の席が空いていたので、サノトはそこに座ると。
ふと、最近気づいた「ある事」に目を向けた。それがなにかと言えば。
「なあアゲリハ。あれってさ、アゲリハの絵だよね?」
サノトがそう言って指さしたのは、オギの店の壁に飾られた一枚の絵画だ。内容は、珈琲とパン。
異世界に来てすぐのころは、おあつらえ向きな絵が飾ってあるなぁ、くらいの認識で、ほとんど意識にも上らなかったのだが。
最近、アゲリハの絵を見慣れてきた所為か、あの絵の作者に察しがついたのだ。
そして、察した通り。「そうだぞ」作者自身が認めた。
「ずっと前にな、オギと世間話をしていた時に、ここの壁が寂しいので、絵の一枚でも飾れればいいなと思ってるんですけど、いざ絵を買おうってなると、どれも良く見えるから中々買えなくって。
などと言っていたからな、なんでもいいのなら、一枚、珈琲とパンを描いたものがあるから、私のものでよければ一枚譲ろうかと言ってみたんだ。
そうしたら喜んでもらってくれてな。それがあれだ」
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