すっかり外が暗くなったころ。

サノトのスケッチブックにリンゴがひとつ、完成した。

「……できたーーー!!」達成感があふれるまま、サノトは両手を天井のほうへと押し上げる。

お世辞にも上手いとは言えないけれど、なにかを完成させるという経験のほうが勝って、すごく気持ちが満ち足りている。

「おつかれさまだぞー」傍らで同じように絵を描いていたアゲリハが、描く手をいったんとめると、にこにこ笑ってサノトのスケッチブックを覗き込む。「うん。上出来だ」

褒められたのが嬉しくて、サノトは両手をあげたまま破顔した。

「アゲリハの絵はどうなったの?」興味が湧くままに、相手のスケッチブックの中身を強請ると、「ほら」アゲリハが、持っていたスケッチブックをサノトに差し出して見せた。

「見ろサノト。真剣に絵を描くお前が映っている」

「……へー」差し出されたそれを受け取り、まじまじと眺める。アゲリハの言う通り、そこには、いつになく真面目な顔で前を見る自分の横顔が描かれていた。

うん、悪くない。

「いいね、こういうの」

サノトからスケッチブックを取り戻したアゲリハが、サノトの描かれた絵を優しく撫でて、「そうだな」同意する。

そして、「絵を描くサノト」の絵は、それから数分モデルしたのち完成したのだった。



集中しすぎてくらくらする目をもみながら、アゲリハの家でシャワーを浴びる。

サノトが浴室から出てくると、「サノト、こっち」先にシャワーを済ませていたアゲリハが、リビングのソファにサノトを手招きした。

呼ばれるままに近づいて、彼のとなりに座る。

そして、座るなり、「あれ?これって……」先日、サノトの世界の美術展で買ってきた本が机に置かれていることに気づいた。

「読んでいたんだ。ガィラじゃないが、世界の違う本というのは、繰り返し読んでいて楽しいものだな」

「そっかぁ」まだ、その楽しさが分からないサノトには、胸にあこがれが宿るのみだ。いつかこんな風に、いろんな趣味を楽しいと笑って言える自分になりたいと思う。

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