昔からそんなこと考えたこともなくて。考えたこともないことを、それでもやりたいと思ったら余計にどうしたら良いか分からなくて。

そういう意味を込めて肩を落としているサノトに。

「わかった。食事が終わったらすぐに私の家に行くぞ」

アゲリハが突然場所の移動を提案してきたので、「え??」変な声が出た。

サノトの動揺に構わず、中身を食べきった食器をどん!と置いて、「趣味を増やす数多の手の内、ひとつ身近なものがある」アゲリハが不敵に笑った。

「それはなサノト。恋人の趣味に染まることだ!」



というわけで。

朝食が胃で消化を始めるのと同じ速度で、サノトは人気のない公園の路地から、アゲリハに連れられ再び異世界へと旅だった。

毎回思うけど、こんな「いまちょっと思いついたから!」みたいなノリで異世界にひょいひょい飛んでしまうのはどうかと思う。

まあそれはさておき。

車がアゲリハの家の車庫に到着すると、アゲリハは先に降りてさっさと家の中へと入っていってしまった。

サノトといえば、恋人が言った「恋人の趣味に染まること」の検討がつかないまま、のろのろ同じように家の中に入って行く。

靴を脱いでリビングを覗くと、そこにアゲリハはおらず。

キッチンの方を見るも、そこにもおらず。

はてあいつはどこへ行ったのかな?と、首を傾げている内に、「サノトー、アトリエに来るんだぞー」二階から彼氏の声がした。

リビングから出て二階に昇り、絵の具の匂いが充満するアトリエを開くと。そこでようやく見つけたアゲリハが、中でごそごそと、色々なものを手にとっては近くの机に並べていた。

「なにしてるの?」その背中に話しかけると。

「うん?ちょっと待ってろ。すぐに準備できる」答えをぼかしたまま、アゲリハが手を動かし続ける。

近くの椅子に座って言われた通り待っていると。アゲリハが探る手を止めサノトに近づいてきた。

「これを見るんだぞ」そう言って、手をひきサノトを立たせると、物を並べたばかりの机の上にサノトを近づける。

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