じゅうじゅうと卵の焼ける良い匂いがして、眠気に抑圧されていた食欲が一気に湧き上がってくる。
着替え終わって数分後。「できたぞー!」作ったばかりの朝食を手に持った彼氏が、手盆でひょいひょいと机に運び始めた。サノトの分だけかと思いきや二人分並んでいる。どうやら、初めからサノトの部屋で朝食をとるつもりだったらしい。
「ありがとアゲリハ」
「どういたしまして!」
それじゃあいただきまーす!と、食事を始める彼氏につられて、サノトも、彼氏手製の朝食に手をつけた。
しばらくは、昨日の美術展やガィラを見送ったときの事などをつまみに会話をしていたが。
その内、サノトは食事の手を止めて。「あのさ、ちょっと聞いて欲しいことがあるんだけど」唐突に話の筋を切り替えた。
「うん?どうした?」
「……えっと、なるべく笑わないで聞いて欲しいんだけど」
「笑わないぞ?どうした?」
「……あのさ、」
切り出したにも関わらず、上手く話を口に乗せられなくて。
サノトは数分しどろもどろしながら、ようやく。
「……俺、趣味がないと思うんだよね」本題を音にした。
「それが一体どうしたというんだ?」
「あの……無趣味ってさ、俺としてはね?あんまりよくないんじゃないかと思ってて」
「だから、それのなにが良くないんだと言っているんだ」
「……そっか、アゲリハには趣味があるから分からないか」
上手く同感してもらえなくて、そっと落ち込んでいるサノトに。アゲリハが「こらサノト」と叱咤する。
「お前はまた、自分がつまらないとかそういうことを気にしているな?そんなことにはそもそも、考えるだけ意味がないと前に言っただろう。
……いや、再度お前がそれを口にしたということは、私の口頭ではぬぐえぬほどお前にとってそれが根深いということだな。
わかったわかった。言いたい事は全部言え」
言えと言われたので。「うん」遠慮なく続きをつけたす。
「……やりたい事をね、見つけたいと思うんだ。でも、やりたい事を見つけるって、どうしたらいいのかなぁって思って」
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