「それじゃサノト。ガィラを送っていくからまた明日……サノト?どうした?」

「あ、ごめん。なんでもないんだ。きをつけて」

「うん」

最後の挨拶と共に、車が動いて、ふっと消え去る。

残されたサノトは、車とかれらの消えた公園の脇を、たたずみながら眺めていた。



気づくと、俺は真っ暗なところに立っていて。

どこにいるのか分からない場所に居続けるのは不安なので、歩いてどこか暗くないところを探した。

ようやく、薄明るい場所を見つけてそこを覗いてみると、不思議なことにそこには「俺」がいた。

「俺」は座ってテレビを見ていた。そこは俺が暮らしている部屋の中で、俺にとって一番見慣れたはずの場所だった。

それなのに、空気が重い。俺は中に入ることが出来ず、「俺」が座ってテレビを見ているのを後ろから眺めていた。

やがて、部屋をのぞく俺に気づかないまま、俺の隣を通り抜けて、「俺」に誰かが近づいた。

それは、俺が過去に結婚しようと思っていた女だった。

彼女は、テレビを見ている「俺」に近づくと、今しがた買って来たのであろう、コンビニのロゴが入ったビニール袋を床に置いて、「俺」の背中に言った。

『ねえ、またテレビ見てるの?あんたってさ、休みの日、テレビかスマホ眺めてなんか食べてるだけだよね。
他にやりたいこととかなにかないわけ?』

結婚しようと思っていた女の呆れた声に、「俺」はうんとかううんとか、あいまいな返事をしている。

女はますます呆れて愚痴を増やしていった。それはどんどん度重なって、次第に加速していった。

『あのさぁ、あんたのそういうところほんと飽き飽きするんだけど。昔から思ってたけど、だらだら勉強してだらだら社会人になってだらだら生きてそのままだらだらアタシと結婚するの?
冗談じゃないわ、アンタみたいなつまらない人間さいてーよ』

そこまで言われても、「俺」は彼女に振り向かず、まだ、うんとかううんとか、遠くの国の言葉のようにうなずいている。

だって冗談だと思ってたから。彼女がそんな風に、俺をつまらないと評価するのは昔からのことで、それは決まりきった冗談のようなものだと思い込んでて。

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