美術館に行った後は、一旦サノトのアパートに戻り、そこからタクシーに乗って予定通り飲みに行って。帰るともう一度サノトのアパートに戻って。

充分堪能しつくした次の日の早朝。

「いやあ、楽しかった」すっかり帰り支度を済ませたガィラが、人気のない公園に向かう道中、上機嫌で笑う。その腕にはしっかりと、昨日美術展で買った戦利品が抱えられていた。

見送りの為、アゲリハとガィラにくっついてきていたサノトは、「それは良かった」と答えておいた。はじめての異世界旅行が彼にとって良い物であったのならばなによりだ。

いつもの公園にたどり着くと、辺りに誰もいないのを確認してから、アゲリハが路地の中で飛行のための車を出す。

そして、アゲリハ運転席に乗り込む前に。「サノトはどうする?」あちらへも一緒についてくるかどうかを尋ねた。

「いや。俺は部屋の片づけするからこっちに残るよ」

「分かった。じゃあ明日の朝、同じ時間帯にお前の部屋を訪ねるから、その時間には部屋にいてくれ」

「うん。わかった。寝てたら起こして」

「分かった」

それじゃあ、と言って、アゲリハとサノトの間に車の扉が閉められる。その最中。「サノトくん」後部座席に入り込んでいたガィラが、窓を開けてサノトを呼んだ。

「今回のこと、本当にありがとうございました。躊躇していた自分が嘆かわしいと思うほど、貴重な体験をさせて頂きました」

「そんな大げさな」

「いいえサノトくん。これは大げさなことですよ」

「そうだぞガィラ。死んでも良いと思えるほどの価値はあっただろう?」

それこそ大げさな。と、サノトは思うのだが。

ガィラは否定をせず、そっと、膝にのせていた、買ったばかりの美術書を愛おし気になでさする。

「―――ええ、まったく。そのとおりですね」

「…………」

好きなものがたくさん載っている本をなでる彼の顔つきは、幸せに満ちていた。それは、彼が今、手元にあるそれをどれだけ愛しているかを物語っていて。

それを傍目で眺めていたサノトは、ふと、……つよい羨望に襲われた。

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