「ああ、いや、……あのさぁ」本の内容、もとい、本に掲載された「由雪」の絵を見ながら、サノトは唸る。
「これ、由雪さんの、今日の美術展では未公開の絵がたくさん載ってる本なんだけど。……セックスしてる絵に見えるの気の所為かな??」
一枚だけならまだしも、どのページを開いても「いわゆるセックスしている絵」に見えるのだ。どういうことだろう??
「ふうん?」アゲリハがサノトから本を取り、興味深そうに中をあらためる。そして言う。「これはあれだな、サノト」
「美術展で飾られていた絵は主に、生活や身近なものをモデルにしたものが多かったが、あれはそもそも美術館側がそのようにわざと選んで飾ったのやもしれん。
200年前。このよしゆきという画家が本当にたくさん描いていたのは、むしろこういった色物の絵かもしれんぞ」
「なんで??画家の人ってもっとこう、高尚なもの描くようなイメージなんだけど??」
例えば空とか、例えば自然とか。なんだかすごいものを描くんじゃないの??
「偏見だぞサノト。絵の描けるやつはな、自分の好きなものをそこに描くんだ。
セックスが描きたかったらセックスを描くんだ」
「へ、へー……?そんなもん?」
「ああしかし、そうとは限らん場合もあるな。
よしゆきは、本当は猫や犬や花や美人がひとりで立っている絵を描きたかったが、それだけではままならないから、性交渉の絵を描いたという可能性も考えられる」
「なんでままならないの?」
「好きなものばかり描いては絵が売れん。絵が売れないと、金がないから生活が出来ない。
だから、金のないよしゆきは、今後も自分の好きな絵を描くために、特別好きではないけれど描くぶんには苦痛ではない絵を描いて金を稼ごうと考える。
お前の好きな絵を描くから金をくれとよしゆきが営業した結果、どこぞの金持ちがやつのパトロンになり、俺のためにセックスの絵を描け。そうしたら金をやると、交渉された。
そんな背景がある気がする」
「な、なるほど……でもなんでセックスの絵なの?」
「人は食欲と性欲にならば、簡単に金を落とすものだろう?
繁殖の基本だからな。それがたとえば副次的なものでも」
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