「こいつがこうなったら話が長い上に相手の理解を考えない。
サノト、それよりも売店へ行こう。館内の出口にあるらしいぞ。せっかくだからなにか絵のついたものを買ってうちに飾りたい」

ちょうど、近くの柱に張り付けられた館内案内の看板をアゲリハが指さして、行こうと急かす。

先に歩き出したアゲリハを追いかけながら、ちらりと、ガィラの方を振り返ると、彼はじっと、名残惜しそうに展示室を眺めていた。

「ガィラさん」その後ろ姿に呼びかける。「また行けばいいですよ。国内で同じ美術展をやってもらえれば、またいつでも行けますよ。ちょっと車に乗るだけなんですから」

ガィラが、まるで幽霊でも見たかのように、唖然とした顔でサノトを見た。

いつの間にか立ち止まっていたアゲリハが、サノトにそっと顔を寄せて笑う。「良い事を言ったぞサノト。お前の今の言葉をこいつは一生忘れないだろう」

「なんのはなし??」

「なんでもない。それより行こう。喉もかわいた」

「うん??」

サノトとアゲリハが歩き出す。その後ろには、のろのろながら、やっと帰る気になったらしいガィラがついてくる。

来た道を引き返して、一番初めの出入口に続く道とは反対側の道を渡ると、件の売店が見つかった。

展示室とは違い、煌々とした照明に照らされ、全体が白く見えるほど明るい。

コンビニほどの広さで、レジが真ん中に据えられ、そのまわりをぐるっと、売り物が囲んでいる。

アゲリハが我さきに売店へ入って、絵葉書をいくつか物色し始めた。ハガキに描かれているのは、先ほど鑑賞していた絵を写し取ったものが多かったが、中には美術展になかったものもある。美術展といえど、作者すべての絵を飾っている。というわけではないようだ。

絵葉書を選ぶ彼氏のとなりで、サノトは一冊の本を手に取った。鑑賞中に眺めたカタログとはまた別の、「由雪」に関することをまとめた本らしかった。

何気なく手に取り、ぱらぱら中身を覗いて。「ん??」思わぬ内容に変な声が出た。

「どうしたサノト?」サノトの声の違和感に気づいたらしいアゲリハが、数時間前と同じく、ひょいとサノトの手元の本を覗き込んだ。

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