「連れてきてもらった遊びの最中に駄々をこねるような奴ではないと思っていたんだが、あてが外れたようだ。
刺激が強すぎたのかもしれん。
サノト。私はちょっと展示室に戻るから、少しここで待っているんだぞ」

「ん?うん、わかった」

サノトの了解を得ると、アゲリハはさっと身をひるがえし、「一度退出したら再入場はできません」と書かれた展示室の出口に立つスタッフに二言三言、言葉を交わすと、するりと中に戻って行った。

入れないって書いてあるところによく入れたなぁ。と、感心しながら、彼氏が入って行った出口を眺めることまた数分。

アゲリハが再び出口から出てきた。ガィラの上着をずるりと引っ張りながら。

文字通り、ずるりずるりと引きずられて出てきたガィラは、掴むところを探すように両腕を宙にじたばた浮かせている。叫んでいないのが不思議なくらい必死にもがいているようだ。

アゲリハが、サノトの立つ廊下までガィラを引っ張ったところで。「えーと」サノトは、未だにじたばたしているガィラを見下ろした。「ガィラさん、大丈夫?」

「大丈夫じゃないな」アゲリハが心底呆れた風に言う。

「こやつときたら、美術展の中に漂ってまったく出口に向かわなかったみたいだ。ここに墓でも立てる気か馬鹿め」

アゲリハとサノトが会話をしている内に、じたばたから、ぼんやりした様子に移り変わっていたガィラが、突然、「はっ!」と我に返り。「すばらしい!」ひとこえ叫んだ。周りにいた人の視線がこちらに注目する。「ばかめ」アゲリハがもう一度相手を罵ったが、ガィラは蒸気した頬を隠しもせず、サノトの方へ詰め寄った。

「あああすばらしかった。すばらしい!あんなものが生きている内に拝めるだなんて、私は果報者だ!
見たことがない!
見たことがない芸術だった!!
まったくみたことがない手法の絵だった!!
なぜ!遠近を用いているのにだましえのように省略しているのでしょうか!そのせいでひとも遠景もすべて奥行きがなくなっている!それなのに!そこがどのような場所かというのが理解できる!
そこに誰も疑問をいだかないということに歴史をにおわせる!まさに近世の美術だ、すばらしい!!
こんなにすばらしいものを君の財布で見れるというのか!なんということだ異世界というものは!」

「えーと、あの、どうも?」世界とサノトを褒められているような気がしないでもないので頷いてみるが、「合わせなくてもいいぞサノト」アゲリハがしっしと、手をはらってガィラをサノトから離す。

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