美術館の入口は、長い階段になっていて。バリアフリー的にどうかと思ったが、それが「美術館の階段」とかけあうと、機能性よりもデザイン重視なのかな。などと思えてしまうから不思議だ。

まあきっと、もっと奥の方にエレベーターなんかはあるんだろうけど。

階段を昇る最中。「そうだそうだ……おっと!」自分のポケットを探っていたら足を踏み外しそうになる。

「サノト、よそ見をしながら階段を昇るんじゃないぞ」彼氏に注意されたので、「ごめんごめん」謝りつつ、今度は階段を昇り切ってからポケットによそ見をした。

「はいこれ。今日の美術展見るためのチケット。
あと、こっちはアゲリハとガィラさんでそれぞれ3000円。ガィラさんはお土産なんかも買ってみたいだろうし、お小遣いとして使って」

チケットとお小遣いを受け取った二人が、「わーい。ありがとうサノト」「良いんですか?すみませんサノトくん」それぞれ、喜んだり恐縮したりしながら、それを自分の服の中へしまい込む。

入館前の準備が全て終えると、上り切った階段の先にある大きな出入口を通り、エントランスで入館の受付のため、チケットを見せて、ちぎってもらう。

半券を渡されて、いよいよ中に入ると、人の流れにそって美術展の中へと入って行った。

美術展は、そういう演出なのか、それとも絵の保存のためか、通常の照明よりも薄暗かった。

壁という壁に、等間隔で額縁に入れられた絵画が飾られ、その由来や説明が添えられている。

絵に描かれているのは、主に、当時の生活の様相や、当時美人だと言われた人の等身大、猫や犬の絵など、歴史は違えど身近なものだ。

彼氏の個展は行ったことがあるものの、かしこまった美術展などは初めてのサノトだったが、中を見たあとでは「ああ、こんなもんか」というのが正直な感想だった。

ものすごく高い階段を昇ってみたら、向こうの景色がいつも通りの空だった。みたいな肩透かしを食らう。

勝手に、こういうのは敷居の高いもの。と、自分が決めていただけで、大概それは思い込みなのかもしれないなと思った。

観覧途中、室内の真ん中に背もたれのない椅子が三脚設置されていたので、サノトは休憩がてらそこに腰かけた。

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