「ガィラ、これはビールと言うんだぞ」

「びーるですか?」

「この国は酒の原材料に合わせて酒自体に総称がついている」

「ははぁ……それはそれは」ガィラが、感心しきりと言った風に、ビールの缶をくるくる回して眺める。

「なるほど。度数で区別するのではなく、原材料で区別をするわけですか。
面白いですねぇ異世界とは。大きな違いは空くらいしかないように見えて、決定的なところがまったく異なっていたりする」

それはサノトも全く同じことを考えた。それを、別の人が口にして同意するものだから、なんだか不思議と嬉しくなる。

ビールはガィラの口に合ったようで、しきりに「これは美味しい」と言いながら三缶ほど飲み干した。

せっかくだから、明日は外で飲もうと誘えば、「よろこんで」と、嬉しそうな肯定を得た。



次の日。

美術館の開館に合わせて起床し、ガィラとアゲリハを乗せて車を発進させた。

目指すは、ここから車で大体1時間先にある地方都市の美術館だ。

車に乗り込んだガィラは、「これがサノトくんの車ですか」と、しきりに内装を見物しながら、「うちとそう変わりがないんですねぇ」異世界との違いを確認している。車に限らず、もうしばらくはなにかにつけて比較を続けるだろうなと思う。なにせサノトもそうだったので。

異世界の差については、ここしばらくの半同棲ですっかり慣れきって来ているサノトとアゲリハといえば。

「サノト。フラペチーノを買っていくんだぞ」

「えー、朝から甘すぎない?」

もはや世界のどんな違いなども気にせず、朝にたっぷりの糖分をとるかとらないかの話などをしていた。

世間話をしたりしなかったり、「どうしてもフラペチーノが飲みたい」と彼氏が言うので途中で買って飲んだり。(サノトとガィラはもちろん珈琲を頼んで、珈琲の色が真っ黒なことにガィラが大層驚いたり)そんなことをしている内に1時間はあっという間に過ぎて、目的の美術館の付近へとたどり着いた。

コインパーキングを探して車を停めると、歩いて数分先にある美術館の前へと移動する。

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