二人がなにやら、むつかしい話をしているのを遮って、サノトはひとりで準備したホットプレートの電源を入れた。
「サノト、すまない手伝わなくて」アゲリハがいそいそ、ホットプレートと材料の乗った座卓に近づく。
サノトとアゲリハが机の前に座るのを見て、ガィラが唖然とする。「床に座るんですか?」
指摘されて初めて、「あ、そういえば床で寝る習慣ないなら座らないよね」ということに気づく。けどまあ、いっか。準備しちゃったし。
「こっちの文化に合わせろガィラ。床に座って食べるのもオツなものだぞ」
「はあ。なるほど。……それでは失礼して」ガィラが、慣れない動作を隠さず、座卓のはしに座る。
「そういえば、アゲリハは初めのころ、床に座って食べるのなにも言わなかったね?」
喋りながら、ホットプレートに油をひく。表面が一気につるつるになった。
「うん。見覚えがあったからな」
「ああ、なるほどねー」そういえば、サノトと知り合う前から、ここに来て観光していたと言っていたのを思い出す。どこかで座卓も見たのだろう。
「アゲリハ、俺野菜焼くから肉焼いて」
「了解だぞ」
野菜を乗せた大皿を掴むかたわら、肉を乗せた別の大皿をもう片方の手でアゲリハに渡す。
トングでひょいひょい、ホットプレートの面を埋めていくと、ちょうどいい隙間に、同じようにアゲリハが肉をおいていく。
数分もすればすべての空地がなくなって、サノトはその上にガラスのフタを置いた。そしてまた数分。
「できたよー」フタを開けると、中にたまった蒸気が部屋の中に広がった。
「やあ、これは美味しそうだ」ガィラが上機嫌で、異世界の形式にのっとった食事の挨拶をする。
「ガィラ、こちらの世界ではこうやるんだぞ」アゲリハが、掌を開いて合わせて見せる。「なるほど」ガィラがそれを見て真似る。
二人が楽しそうに両手を合わせている内に、サノトは立ち上がって買っておいた酒を冷蔵庫に取りに行った。
まずはビールを相手に渡すと。「やあ、これはどうも」ガィラが受け取り、「どこにでも似たようなものはやはりあるものですね。中身は赤ですか?それとも緑?」
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