異世界飛行のため、アゲリハは運転席、サノトは助手席、ガィラは後部座席に座り、ガィラ以外は全くいつもどおりに車が発進する。

サノトはもう、見慣れた景色を、ガィラは「ひっ!」と、いつかのサノトのように怯えながら眺めていたが。

彼が顔を真っ青にさせていたのもさほど長くはない時間だった。ガィラは、「自分が異世界を渡っても無事らしい」と気づくなり、後部座席で安堵の息をついた。

スパンコールの光る白い景色をながめながら、ゆったりとした口調で「異世界をわたるというのは、想像以上に綺麗ですねぇ」しみじみ呟いている。

「だから前々に言っただろう」運転席のアゲリハが、呆れた声で言う。「綺麗だから一度乗ってみないかと」

「ああ。本当に綺麗だ。乗ってみるもんですね、アゲリハ様」

「まったく。そろいもそろって意気地のないことだ」

あ、今俺もセットで「いくじなし」って言われたな。と、感づきつつも、否定できないので黙っておく。

いつも通り、飛行車はサノトのアパートの近くにある、人気のない公園にふっと降りて止まり、到着すると、アゲリハは車を叩いて小さくまとめた。

「ここからは歩くぞ、ガィラ」

「うち、狭いですけど、ガィラさんの分の寝る場所は用意しておいたんで」

といっても、トーイガノーツで暮らす人は床で寝るのに抵抗があると思うので、サノトがいつも使っているベッドを使うのはガィラで、仮でこしらえた寝具を使って床で寝るのはサノトだ。

そして、こういう時、一人暮らしに戻っても2DKのアパートに住み続けていてよかったなぁと思う。たんに引っ越しするのが面倒なだけだったんだけど。結果オーライだ。

ガィラは、サノトのアパートに向かう道すがら、ずっと上を向いて歩いていた。

「星が小さくて丸い……すべて白色なんですね。けど、ひとつだけ星が大きいのはなぜでしょう」

「ガィラ、あれは星ではないそうだ。あのひときわ大きな星のようなものは、ここでは月というんだ」

「つき、ですか」ガィラが口の中で聞いたばかりの単語を反復する。

やがて、「月が綺麗ですねぇ」と、空を眺めたまま楽しそうに言った。

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