アゲリハがかすかにあざ笑うなか、突然、ガィラがチラシから手を離し、目の前に置かれていたぬるくなった珈琲のカップを掴んだかと思えば、中身を一気に飲み干した。
そして、けたたましい音を立ててカップを戻すと、一転して、深いため息を吐く。そして言った。「……正直に言えばものすごく行きたいです」
「じゃあ行きましょうよ。大丈夫、眼鏡とネックレスがあれば大丈夫だろうし、それは俺のものを貸せばいいし、それに、向こうのことは俺が案内しますよ」
「いえ……私が思い悩んでいるのはそこではないんですよ、サノトくん」
「え?他に悩むところありました?」
「異世界に行く。ということに抵抗があります」
「え?なんで?」
サノトなぞ、毎週どころか毎日異世界へ行っている日もあるくらいだ。
まあ、始めのはじめは、異世界というものが呑み込めず「ここは夢か」と思い込んだ口だけど。
戸惑うサノトの隣で、「こいつはな、サノト」冷めきった油湯をなめながらアゲリハが代わりにこたえる。「異世界に行ったら、自分が死ぬんじゃないかと思っているんだ」
「え??なんで??」それこそ余計に意味が分からない。「ガィラさんが異世界に行って死ぬなら、俺どうなるの?何回死んでるの?そもそもアゲリハだって」
「その条件が私に当てはまるとは限らない」サノトの言葉をガィラの言葉が遮る。
「確かに、アゲリハ様とサノトくんは異世界を行き来できるでしょう。行き来できる条件だったのだと実証したんでしょう。
だとしても、私がそうだという確証はどこにもない。たった二人。それも、私とは全く条件の異なる人間が世界を越えたと言われても、それは全く保証にならない。私には適応されないと考えます。
私は今すぐに死にたくないので、世界を越えるなどという危ない橋は渡りたくない」
「ええ??それだと俺も、もしかすると死んでたかもしれないって話じゃない?」
思わずアゲリハを見ると、彼はさっと目をそらして「結果がすべてだ」と無責任なことを言った。このやろう。あとでおぼえてろ。
「そっかー……それじゃあ仕方ないか」サノトとしては、いや大丈夫じゃね?というのが本心なのだが。
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