ガィラに買っていくための美術書を近所の本屋で選んでいる時のことだった。

最近、自分用ではないけれど縁の出来た美術書コーナーのすぐ隣に、仮設のスチールラックが立てられていて、そこには、「由雪展」と書かれたチラシが、何枚ものせられていた。

「ご自由にお取りください」の文字に甘えて、そのチラシを一枚手に取る。

サノトは、A4サイズの表面が光るそれをじっと眺めてから、四つに折りたたんでポケットにいれた。

そしてまた、美術書のコーナーに目を戻す。

これは前に買ったあれも前に買った。じゃあこれかな。表紙もきれいだし。

分からないなりに選んで手にもつと、雑誌コーナーに移動して数分だけ冷やかしてから、美術書を買うためレジへ向かった。



本屋で美術書を買って、数日後。

「あ、そうそう。ガィラさん。これ行かない?」

異世界ことトーイガノーツ、彼氏と半同棲中の家で、彼氏の友人ことガィラが遊びに来ていた際、頼まれていた美術書を渡しがてら、サノトは彼に一枚の紙を差し出した。

「これは?」紙を差し出されたガィラが、光沢のある表面を不思議そうに眺める。

「美術展なんだってさ」サノトが、紙、もとい美術展のチラシ内容を、異世界語の読めない彼の代わりに代弁する。

「俺の世界で、今開催されてる美術展の勧誘チラシ。今日渡した美術書の隣に置いてあったんだ。
この前さ、ガィラさんがアゲリハの個展のチケットくれたから、お礼にどうかなって思って持ってきたんだ。
ていっても、実をいえば俺が興味あるだけなんだけど。
俺、こういうのいった事ないんだけど、最近アゲリハとかガィラさんに感化されてきて、なんかちょっと行ってみたいなって。けど、ひとりで行くのは敷居が高いから、こういうの好きな人と行けば楽しそうかなって。
あ、そうだ。メガネ貸しましょうか?これがあれば内容がある程度読めると思うんだけど……」

むろん、サノトの世界にしかない言葉や意味合いは分からないけれど、と、一応補足をして眼鏡を渡すと、ガィラが無言でそれを受け取り、自分にかけていたものと取り換えた。

02>>
<<
top