夜を待ち。きしむ身体を起こしてアゲリハさんと車に乗り込む。
二度目の異世界移動は初回と異なり、興奮も恐怖もなかった。
ただ、異邦の海になぜ今連れていかれるのだろうという、起伏のない疑問だけが浮かんでいた。
しばらくすると、車が白とラメの空間に入り、それから間もなく、アゲリハさんの家の車庫に景色が切り替わった。
到着するなり。助手席側の扉を開けようとしたサノトに「まだ降りないでくれ」アゲリハさんが制止をかける。
椅子に座りなおすと、車がそのまま発進した。今度はおかしな空間ではなく、こちらの世界の道路上を車が走って行く。
「この車、普通の道も走れるんだね」
「それはそうだ。これは車だからな」
「……そうなんだけどさ」
「便利だろう?」
「……そーだね」
土地勘のないサノトでは、右も左も分からない場所を、アゲリハさんが車で走り抜けていく。
公道と思しき場所を走り、途中、パイパスらしき高架道路に入り。
そして数十分後。密集していた市街地から遠ざかる代わりに、夜空と、開けた海らしきものが見え始めた。が。
「……ん?」違和感を覚える。
「アゲリハさん。あれって」窓越しに海を指さすと。「すぐに近くへ行くから。もうちょっとまってろ」疑問を先延ばしにされた。
それから、二人を乗せた車はしばらくしてバイパスを降下し、適当な場所で停車した。
アゲリハさんが車をしまってからすぐ、「さあ、海へ行こう」彼の先導のもと、海へと歩いて行く。
間もなくして、砂浜と海が間近に見えてくると。「ひ、」サノトは小さく悲鳴を上げた。
砂と海が光っている。まるで電飾のように。
「す、すごい!なんで光ってるの!?」サノトが驚き振り返るも。「こういうものだからだ」アゲリハさんは穏やかなままだ。
「トーイガノーツの海にはな、光石(こうせき)と言って、大量の石が漂っているんだ。軽いものから順に層になっていて、これを海層という。
この石は夜になると発光する性質を持っていて、その明るさは重さに比例している」
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