「サノト!」誰かが、屈んだサノトの前面を掴んだ。
しまった。と思うがもう遅くて。その人の体に嘔吐してしまう。
人に吐いてしまったことにショックを受けて、よけいにぼろぼろ涙が落ちていると。
「大丈夫かサノト。ゆっくり息をするんだぞ」サノトの背を相手がなで始めた。
「はー、はーっ、はぁ……、」
「大丈夫だぞ」
「ぁ……、?」
ようやく相手の顔が見える。アゲリハさんだ。
どうしてここに?
聞きたいのに喉がつかえて声が出ない。
「サノトが心配で追って来たんだ。
しばらくは店の外で様子を伺っていたんだが、お前が店員につまみだされたのを見てこっちに来たんだ」
声が出ないサノトの代わりにアゲリハさんが答えてくれる。
ついでに、アゲリハさんは上着を脱いで、綺麗な部分だけをめくると、サノトの汚れた口元をそっと拭ってくれた。
「もう大丈夫だぞ。サノト」
「……あ、あげ……っ」
「どうした?」
「う、う……うぅ……うぅぅ……っ、うわぁぁあああぁああああああああああああああ……、」
相手にしがみついて号泣する。どこからなんの水が出てるかわからないくらい、サノトは悲しみをむさぼった。
アゲリハさんはしがみつかれたまま、黙ってサノトの背中をなで続けてくれた。
ひたすら泣いて。そのうち枯れて。夜が明けるころ。
泣きつかれたサノトを、アゲリハさんがうちまで連れ帰ってくれた。
家に帰ると、半ば失神する勢いで眠り込む。
そして起きると、サノトは全く立ち上がれなくなっていた。
半年分こりかためた傷を開いたせいか、行動する気力が少しもわいてこない。
寝そべったままぼうっとしていると、そのうちアゲリハさんが傍にきて座った。
「……アゲリハさん」
「疲れただろう?いつまでも寝てていいんだぞ」
「……うん、ありがと」
排泄以外のやる気が起きず、本当に、何時間も寝転び続けてしまった。
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