淡水魚のほうを見たアゲリハさんが、「かわいい!」ひとこえ叫んで水槽に張り付いた。
「サノトの言う通りだ!小指くらいの大きさしかない魚がいる!ちいさい!」
「あっちも見に行く?」
「いくぞ!」
エントランスからすでに大盛り上がりのアゲリハさんを連れ、館内の更に奥に入ると、自分の背丈よりもやや大きめの水槽が並ぶ通路に入る。
魚はブースごとに水槽が仕切られていて、それぞれの器の中で、色鮮やかな魚たちが優雅に泳いでいた。
ふと、アゲリハさんが足を止めたので、サノトも立ち止まり彼を振り返った。すると。
「きれいだ」
泳ぐ魚をじっと眺めながら、うっとり、顔をゆるめたアゲリハさんの姿が目に入る。
水槽のバックライトに青く照らされた彼の横顔が、あまりにも綺麗で、サノトは硬直してしまった。
「そう思わないかサノト?」
夢見るような面持ちで同意を求められたが、上手く声が出てこない。
深呼吸して気を落ち着かせようとすると、かえって心臓がやかましく動いて顔が熱くなる。
変な気分だ。美人って心臓に悪い。
しばらくしてようやく落ち着きを取り戻すと、アゲリハさんから目を離して水槽に視線を戻す。
戻した目線で見た魚は、つい先ほど、隣であまりにも綺麗なものを見てしまったせいか、数秒前より少しだけ色褪せて見えた。
じいっと水槽に見入っていたアゲリハさんが、やがてどこでもない場所に顔を向けると。「海がこうも違うとはな」つぶやく。
「どういうこと?」視線を追って尋ねると、ゆっくり、アゲリハさんがこちらを振り向く。
「この設備は海を模しているのだろう?」
「うん。そうだと思うよ」
「私の知っている海はこうではないんだ。こんな風に、青と緑の相さを漂う色合いではない。ましてやこんな風に、魚は海面近くにいない。
見ることがかなわない景色だから余計に、美しいなと思ったんだ」
「そうかな。俺は見慣れてるからそこまで感じないや」
「そうか。……ああ、だとしたらお前に見せたいものがある」
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