「サノト、私はミルクもクリームも気に入ったぞ。もっと他にも食べてみたいなぁ」

「可能な範囲だったらお手伝いしますよ」

「ありがとう!」

しばらく、夢中でシチュウを食べていたアゲリハさんだったが。シチュウの器が空になったところで。「さて……」ちらりと、サバのから揚げを見た。戦地に赴くような顔つきである。

から揚げのはいった器の上で、おそるおそるフォークを迷わせたあと、えい、っと身に刺し、潔く口に放り込んだ。

「…………」もぐもぐ、アゲリハさんがサバを咀嚼する。

その内、難しかった顔がほぐれて、呆気にとられたような顔つきになっていった。

「どう?」

「うーん……ふつう?」

「そらみろ。ふつうだ。言っただろ?」

「うーん……。鶏肉に近いようなそうでもないような。ただ、強烈な味ではないな」

一度食べるとシチュウと同じくこなれたのか、ひょいひょい二個目、三個目をほおばっていく。

しばらくして、魚も全て平らげると。「うん。ふつうだ。ふつうにおいしい」可もなく不可もない感想で締めあげた。

「魚はそこが良いんだよ。ふつうだから毎日食べても飽きないんだ。いつもいつも感激するような食事してたら疲れるだろ」

「うむ。たしかに。食卓に癒しを求めるのならば、刺激は抑えめ方がいいな」

「魚が食べられただけでも満足だ」そう言って、アゲリハさんが食器の片づけを手伝ってくれる。

それから、アゲリハさんは再び漫画を、サノトは皿洗いをしている最中。

「そうだ。せっかくなら泳いでる魚を見に行く?」思い付きで提案すると、「どういうことだ?」漫画から顔を上げたアゲリハさんに詳細を請われた。

「いや。魚ってアゲリハさんにとっては、食べるのも見るのも珍しいんでしょ?だったらせっかくだし見に行かない?
俺の国、魚を安く見れる場所があるよ」

「本当か!」きらりと、アゲリハさんの目が輝く。

「ほんとほんと。水族館っていうんだけどね、いろんな魚が水槽の中で泳いでるのを鑑賞できるんだよ。
せっかくだし、俺が車出して近所の水族館まで連れて行ってあげるよ。アゲリハさんさえ良ければ、今日はおれんち泊って、明日行かない?」

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