どうせだし、牛乳も買って夕飯にシチューを出すか。

今は初夏の手前でシチューは時期じゃないけど、まあ異世界人なら気にしないだろう。

牛乳とシチュウのルウ、クリーム、野菜、魚、鶏肉も買ってレジに並ぶと、数分ほどして夕飯の材料を手に入れる。

荷物を持って車に戻ると、すぐにエンジンをかけた。

車を運転する最中。「そういえば」アゲリハさんがガラスの向こうを見上げた。

「お前の国の空は夜に近づくと、短い間だけ真っ赤に染まっていくな。
あの空には名前があるのか?」

信号が止まれになったとき、サノトもふと、ガラス越しに空を見上げた。

さきほど話題に出た赤い空が、暗い青色に浸食されていく様が見える。

「あるよ。夕暮れっていうんだ」

「ゆうぐれか」

ゆうぐれ。ゆうぐれ。

語感が気に入ったのか、アゲリハさんが何度もゆうぐれを口の中で転がしていく。

彼が「ゆうぐれ」に対して気が済むころ、車がアパートの駐車場へ到着した。

袋を持って部屋に戻ると、最近片づけたばかりのキッチンに荷物を置いて、棚から調理器具を取り出す。

久しぶりに使う器具は軽く洗って、布巾で水気をぬぐっておいた。

「お茶のんで待ってて」

買ってきたばかりのお茶を開けてカップに注ぎ、向こうで待っているよう伝えると、「はーい」アゲリハさんは受け取ったカップを持って部屋に引っ込んでいった。

しばらくすると。「サノト。本を読んでもいいか?」ひょっこり戻ってきてサノトの本棚を指さした。

「ああ。いいよ。ていっても読めるの?」

サノトがアゲリハさんの家にいたとき、目に入る文字らしきもの全て見たことのないものばかりだったのを思い出す。が。

「大丈夫だぞ。あれが読みたい」

アゲリハさんが具体的に指さしたのは、サノトが学生の時から集めている長編漫画。

サノトの承諾を得ると、アゲリハさんは本棚に近づき、本を何冊か抜き取り始めた。

アゲリハさんが漫画を楽しんでいる間に、サノトは夕飯の調理にとりかかる。

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