「あ、でも、マーケットもお金なくてもはいれるから、アゲリハさん、行ったことはあるんじゃない?」

「あるけど、一人で行くのと現地の人と行くのとではまったくべつものなんだぞ!いろいろ聞きたいこともあるし、今から行けるなら行きたいんだぞ!」

「なるほど。それもそうだね。じゃあ行こっか」

せっかくマーケットまで行くならいろいろ買い込んで置こうかと思い、いったん車を取りに戻りたいとアゲリハさんに告げて、喫茶店からサノトのアパートへ逆戻りした。

アパートの駐車場に入って自分の車に近づき、助手席にアゲリハさんを乗せると、あちこち興味深そうに観察された。

「ずっと掃除してないからあんまりじろじろみないでよ」と言えば、「酒臭いところを介抱までした仲だぞ。掃除の有無などいまさらだ」と笑われる。

「そうだけどさぁ」そこは気分の問題っていうかさ。

エンジンをふかす間、ガソリンが心もとないことに気づいて「マーケット行く前にガソリン入れても良い?」と聞けば、「がそりんとはなんだ?」逆に聞かれた。

「あれ?ガソリンないの?でも車はそっちでも走ってたよね?」

「その口ぶりからするとがそりんとやらは車を動かすのに使用するものだな?」

「そうだね。燃料だね」

「ねんりょうという単語も耳慣れないぞ」

「えーと、燃料とガソリンっていうのは……」つたない知識でガソリンとはなにか。ということを口頭で説明すると、「ほう。液状の動力か」やたらに感心された。

「もしかするとそっちのガソリン……に該当するものは液状じゃないの?」

「違うぞ。うちのは固形物を使う。
特別な石を加工したものでな。明りにもなるし、熱にもなる」

「へえ。電気みたい」

「でんき?」

「あれ?電気ないの?えーと、電気っていうのはねー。この前言ってた電線の……」

説明している内にエンジンがあったまってきたので出発し、あっという間にマーケットへ到着する。

駐車場に車を止めると、アゲリハさんを伴って中に入った。

カゴを持つ傍ら、「そういえばさ」アゲリハさんに振り向く。

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