「お礼のお金いる?すぐに降ろしてこれるよ」

「いらない。その代わり頼みがあるんだ」

「え?なに?」

きょとんとしたサノトの前で、アゲリハさんはすっと窓に振り返って「この世界を案内してくれないか?」と言った。

意図をすぐに呑み込めず唖然としていると。アゲリハさんが詳細をさらに付け加えてくれた。

アゲリハさんいわく。彼が異世界旅行を始めたのは大体1年前くらいかららしい。

ひと月に一度か二度の頻度で目だないよう遊びに来ては、違う世界を見て楽しんでいたらしいのだが。

「世界が違うというのは国が違うのと同じでな」

ようするに知人を頼るとか、お金を使ってなにかをするなどは一切できなかったとのことだ。

「無料で入れる場所とそうでない場所があるわけだし、その上、茶をいっぱい飲むのにも菓子のひとつを食べるにも金がいるだろう?
だが私はいわば不法侵入者なわけだ。当然、住所も持たない人間に金もつてもあるはずがない」

「お金についてはさ、盗むって発想はなかったの?」

「ない」

「だよね」

「だから、1年ずっと、金のかからない楽しみ方をしていた。外観を眺めたり、散策したり、店に入って品物だけを眺めたり。拾って来た石を集めてみたり」

「最後の面白いね」

「だろう。案外いいものだぞ。今度うちに来て見てみるか?」

「みるみる。っていうか、あれ?俺もっかい異世界行ってもいいの?」

「もちろんだぞ。いっかいどころか何度でも来てくれ」

「わーいやったー」

それはさておき。

サノトと知り合ったおかげで事情が変わってきたから、無料で遊べる以上の、少し踏み込んだことをしてみたいということらしい。

無職かついますぐ復職する気がないなら私に付き合ってくれと言われ、そのくらいならと、サノトは安く請け負った。

「どこか行きたい場所とかある?」

「お任せするんだぞ」

「分かった。
とりあえず飲食店でも行こうか。俺もアゲリハさんに連れて行ってもらったしね。
異世界の飲み物飲んでみたくない?」

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