「あいかわらず優しいね」思ったことを口にすると、「優しいといわれて悪い気はしないな」相手がうれしそうに微笑んだ。

これも相変わらず綺麗な顔。やっぱり性根ってツラに出るんだな。

「だが、優しいかどうかと言われると、別にすべてが善意というわけでもない」

「どういうこと?」

「私の行動には下心があるという意味だ」

それこそどういう意味だろう。

首を傾げていると。「ときにだなサノト」アゲリハさんが、飲んでいた茶を口から離して机に置いた。

「推察するに、お前は今傷心からあらゆる行動へのやる気を失い、貯金のある限り自由を謳歌しているとみているが」

「無職って言っていいよ……」

「すまん。遠回しは余計だったか。
とにかく無職中だとは思うが、いますぐ再復職に励む気持ちもしくは予定はあるか?」

「いやー……いますぐにはないかな。貯金すげーいっぱいあるし。
ずっとしてないのはまずいな。とは思ってるけど」

「そうか。いますぐはないんだな?」

「うん。もうちょっと気晴らししてたいなぁ」

そんな風に考えてるくせに、ここ半年まったく気晴らしが出来ておらず酒浸りになってしまったわけだが。

「あ、でも、アゲリハさんの世界へ行ったのはすごく気晴らしになったよ」

気晴らしと言うかもはやどっきり体験のし過ぎで心が一周したというほうが正解だけれど。

けど、あれから朝にちゃんと起きれるようになったし、ゴミ放りっぱなしでゴミ屋敷みたいになってた部屋も多少片付け始めたし、買い食いではなく、自分でごはんを作るようになってきたし。

今までならチャイムが鳴っても絶対外には出なかったけど、今日みたいに応対することができるようにもなった。

ようするに、普通の感覚が戻ってきたのだ。

世界を跨ぐと悩みが治るのかな。と思ってからすぐ、「いや比べるスケールが違いすぎるわ、世界と不倫ぶつけるなってのうける」言葉なく笑った。

「なんかほんといろいろ世話になったよね。ありがと、アゲリハさん」

「それはなによりだぞ」

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