「****、************」
「ご、ごめん。なに喋ってるのか分からないんだけど!?」
「******、**********」彼が何かを喋っている途中、再びネックレスを首に戻した。すると。「というわけだ。分かったか?」また、彼の言葉が聞こえるようになる。
「ようするに、これはお互いの世界で耳と口が同時翻訳が出来るようになるしろものなんだ」
「へー!すごい!どうなってるんだろう!」
「分からん」
「アゲリハさんの世界の道具じゃないの?」
「うん、違うんだ。まあそれについては……私も上手い説明が出来ないので省こう」
それより、また茶を一杯くれないかと請われたので、サノトはどうぞどうぞと彼を部屋の中へと誘った。
すぐにお茶を出して、また世間話をして。そのさなか。
「そういえばサノト。あれから深酒はしてないか?
つらい出来事のあとに一人きりはつらいだろう?」
顔が引きつった。
つらい出来事。って今言われたけど、……まさか。
「ねぇアゲリハさん。……俺、なにかしゃべった?」
暗に、介抱されて異世界に連れていかれた直前の夜。酒の勢いで自分がなにかしゃべったのかを探ると。
「酒の席でお前に、長年連れ添った女に捨てられた挙句、その女がお前の上司と出来ていて、二重苦から仕事を辞めたという話は聞いたな。これ以上の続きがあるのか?」
「いや……ないです」
どこまでっていうか全部しゃべってた。
羞恥に顔が赤くなる。
「これから外で飲むときはしぬほど気をつけよう……」
「そうだな。そうしたほうが良い。
外で正気を失うとうっかりちがう世界に連れていかれるぞ?」
「それは別口じゃないですかね」
「冗談だ」
……それはさておき。
顔の赤みが収まるのを待つ間、ちらりとアゲリハさんを盗み見る。
喋ってしまったのはうかつだったが、ようするにこの人、貸したものを取り返しに来たのではなく、サノトの傷心を思いはかって、様子を見にきてくれたらしい。
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