上も下も左右も白い空間に、スパンコールのような粒がいくつも泳いでいる。

車の肌にそれらがぶつかると弾けて消える。目がちかちかする景色だった。

「すごい!なにこれ!」車窓にへばりついて外を眺めていると。「あいさだ」アゲリハさんが静かに答えた。

「私とお前の世界の違いを異世界。と表現はしたが、実際、どちらも同じ場所に存在していて、ただ、お互いの存在が交わらないところにあるんだ。だから、私とお前の居場所は異なって見える。それが世界が異なるということだ。
この乗り物が超えるのはそのあいさ。これはあいさを飛ぶ乗り物なんだ」

「へー!すごい!なんかむつかしいね!」

「そうだな。けど、知っているだけで、これが本当なのかどうかは私も分からないんだ」

そう言って、アゲリハさんがふと、車窓のどこでもない場所を見た。けれど、すぐに首の位置を元に戻す。

数分後。白とスパンコールの景色は溶けて消えていった。変わりに車窓に映ったのは、人気のない公園。どうやら、車は公園の路肩に停まったらしい。

「つ、着いたの?」窓の外をまじまじ眺めている間に、アゲリハさんが立ち上がってさっさと出入り口を開く。

「ほら、下りるぞ」先に外に出たアゲリハさんを追う形で、サノトもおそるおそる地面に下りると。「……ほんとに帰ってきた」白い月、小さな星、紺色の空。正常な夜空を見上げながらいまさら、唖然とつぶやく。

「ってことはなにか。ほんとのほんとに、俺は酒を飲んで人様に迷惑をかけて、その人が異世界人だったってだけか」

「そのとおりだな」

「……ご迷惑をおかけしました」

もっと早く言うべきだった謝罪を口にしながら長々頭を下げる。

「再三言うが、気にするな」

「そうだ。俺の銀行口座はこっちにあるけど、お詫びのお金どうする?」

「心付けは要らないからお前の世界の茶を一杯くれないか」

「喉がかわいた」と言いながら、アゲリハさんが車のボンネットを叩いた。すると、車がぶるっと震えて、から、あべこべな形に変形し、やがて小さな箱のようなものになって、アゲリハさんの手に収まった。

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