「う?……う、うん。帰れるなら、帰りたいかな……?」
「そうか。それじゃあ帰ろう」
えーと。……帰って良いんだ。
俺、異世界とやらにいるらしいんだけど、今から勇者の剣を持って魔物退治とか、捕らわれの身になって脱出劇を繰り広げるとかしなくて良いんだ。
へーそっかー。
いや、そんなことしろって言われる緊急事態な異世界だったら、こんなにのろのろ目覚ましさせてくれなかっただろうけど。
いやでもなぁ。まじでいいの?
などと、拍子抜けているサノトのとなりで、アゲリハさんは「夜をまとう」と言った。帰る時に目立つといけないから、人気がなくなるのを待つのだと。
「幸いなことに、こちらとあちらでは時差がない」
「どういうこと?」意味を分かりかねたが、訪ねても「後でわかる」の一辺倒だったので、言われた通りアゲリハさんの部屋で夜がくるまで待機した。
待望の夜がくると。アゲリハさんが椅子から立ち上がり、「それじゃあ行くぞ」外に出るよう促された。
アゲリハさんの後ろにくっつく形で玄関を出ると。アゲリハさんはすぐに立ち止まって、左手に折れた。目の前には倉庫がある。
扉を開くと、中には車が一台停められていた。どうやら物置ではなく車庫のようだ。
その、車を親指で指して。「乗ってくれ」アゲリハさんがサノトに振り返る。
「え?ああ、うん。ところで助手席ってどっち?」
「左だ」
「なるほど。一緒だね」
言われた通り車に乗りこむと、アゲリハさんも運転席に乗り込む。
アゲリハさんがエンジンをかけると、ハンドルの左横に埋め込み設置された画面がぱっと光り輝いた。どうやらカーナビが搭載されているらしい。
「どこへいくの?おれのうちは?」サノトが隣で聞くと、「お前のうちへ行くんだぞ」アゲリハさんが答える。
「どうやって?」
「この車で」
「え?この車で??」
「すぐに分かる」
そう言って、アゲリハさんがカーナビをいじり、やがてハンドルを掴んでアクセルを踏むと――――「うわ!?」一瞬にしてフロントガラスの景色が一変した。
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