融通が利かないのか、それとも。
…………。
「どうしたサノト。難しい顔をして」
「え?あ、ごめんごめん。なんでもないんだ」
乾いた笑いをこぼしながら真っ白珈琲を飲み干す。
ついでにパンのあまりも食べ終え「ごちそうさま」手を合わせると、同じように食べ終えたアゲリハさんが、同じようにごちそうさまとつぶやきながら、両手に拳を作り重ね合わせた。どうやら食べ終えた時のポーズが夢の中では違うようだ。
「オギ。ごちそうさま」アゲリハさんがキッチンに近づき、男の前で財布らしきものを取り出すと、「はーい。ありがとうございます」キッチンに併設されたレジ機らしきものから勘定の音がした。
「またきてくださーい」男がまた、サノトににっこり笑いかける。サノトもぎこちないなりに、精一杯笑い返してみた。
席を立つと、すぐに店を出る。
「せっかく外に出たのだし、行きたい場所はあるか?」
「そうだね。ぶらぶら歩きたいかも」
「そうか。それじゃあしばらく歩こう」
サノトのリクエストに応えてアゲリハさんがあちこち歩いてくれる。そのたび見える景色から、ちょっとした差異を見つける度。「へぇえ」サノトは感心を示した。
「夢の中って電線がないんだね」
「でんせんとは?」
「建物と建物の間に繋がってる線のことだよ」
「ああ。あれか。でんせんと言うのだな。うん。夢の中にでんせんはないな」
電線はないけど、道路はある。車も。
他には一体どんな違いがあるんだろう。
好奇心のまま夢の細部を知ってしまいたい。けれど、知りたくない。なぜなら。
「…………」
「もうちょっと歩こうか、サノト」
「う、うん」
連れられるまましばらく歩いて。時折お腹が空いたら物を買って食べる。
散策に飽きたらアゲリハさんの家に戻って、昼寝をさせてもらったり、起きてしゃべったり、外に出たり、戻ったり、また食事を作ってもらったり。
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