「おそろしい食文化だな」
こちとら、油に砂糖とお湯いれるほうがおそろしいんだけどなぁ。
どうやら、夢と現実は飲み物がかみ合わないらしい。
当たり前のことを笑いつつ、せっかくだからと夢の珈琲をひとくち。口に含むと、飲み慣れた苦みが口いっぱいに広がった。
見た目と味がちぐはぐだけど、これ、本当に珈琲だ。
でもこっちのほうがちょっと酸っぱいかな。これはこれでおいしいけど。
形のそれぞれ違うパンも頬張ると、あっさりした味でおいしかった。真っ白でちょっと酸っぱい珈琲によく合う。
ゆったり食事をしていると、ふと、目の前で同じように食事しているアゲリハさんが目に入る。
あちらは、油湯とやらを美味しそうに飲みながらパンをちぎりちぎり食べている。
「…………」おいしいのかな、油湯って。
そんな風に思ったら気になりはじめて、「ね、それひとくちちょうだい」空いてる方の手を差し出してみる。
途端、アゲリハさんが苦笑しながら顔を上げた。
「イヤそうな顔をしていたのはどこの誰だ」
「好奇心が湧いてきた」
「勇敢なのは良いことだな」
それじゃあどうぞと言って、アゲリハさんが自分のカップを渡してくれる。
軽く礼を言ってから、サノトは油湯とやらをひとくち、口に含んだ。
「……あれ?結構うまいねこれ」こってりした甘さが通り抜けた後、最後に複雑な味が追いかけてくる。飲んだことのない味だけれど、美味しかった。
「いけるだろう?」
「うん。偏見だった」
「そうか。それじゃあさっきのみるくとやらも、私にとっては偏見かもしれんな」
「そうかもね」
俺の夢なら、望めばこの手に出せるだろうか。
折角の夢ならやってみようと思い立ち、じっと手のひらを見つめてみる。が、あの白くてほんのり甘い飲み物は一向に出てこなかった。
薄情な夢だ。これだけ鮮明かつ面白いというのに、飲み物ひとつ出してはくれない。
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