玄関の手前には小さな庭があって、左には扉の閉められた、倉庫らしきものがあった。
庭と車庫抜けるとすぐ、舗装された歩道に出た。
美人さんの家の両隣にはほとんど同じ家が建っていて、育ち切った樹木がお互いの家を遮るような形で生えていた。
美人さんが振り返りながら「この三棟は借家なんだが、真ん中の私しか住んでいない」説明する。
歩道を歩けば、また別の家や、走行する車が目に入る。
そのどれも、サノトの知るデザインとは差異があるものの、見慣れた住宅街とほぼ同じものだった。
「こういうところは現実も夢も一緒なんだな」
「言っただろう?大して変わりはないんだと」
「そんなもんなんだね」
あちこちゆび指しながら歩いていると、数分もしない内に美人さんが足を止めた。
足を止めた先には、道の曲がり角に建てられたこじんまりとした店が建っていた。外装はやや古く。新しさはないが、しかし温かみを感じる店だ。
「美人さん。食事する場所ってここ?」尋ねると、振り返り様に苦笑された。「いいかげん名前で呼んでくれないか」
「名前があるんだ。なんていうの?」
「アゲリハだぞ。美人だと褒められるのも悪くないが、せっかく名前あるのだから固有名詞で呼んでほしい」
「うん分かった。アゲリハさん。もっかい聞くけど食事する店ってここ?」
「そうだぞ。行きつけなんだ。ここのパンと油湯がおいしいんだぞ」
「あぶらゆってなに?」
「お湯に油と砂糖をいれた飲み物だぞ」
「げ。なにそれ。俺それは嫌だな」
「向こうに油湯はないんだな。
良い良い。お前は珈琲でも飲んでいろ。酒が好きなら珈琲も好きだろう?」
「うん。よくわかったね。じゃあ俺は珈琲ってことで」
「了解した。
ふふ、だが、多分驚くぞ?」
「え?なにが?」
「見ればわかる。とりあえず入ろう」
二人縦に並んで店の中に入ると。「いらっしゃいませー!」奥のキッチンで誰かが振り向いた。おかっぱの髪に眼鏡をかけた、優しそうな男性だ。
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