美人さんはトレイを傍の机に置くと、ちょいちょい、サノトを手招きしてくる。
「酒を飲んだあとだから胃が疲れているだろう?柔らかいものにしてみたぞ」
「ありがとー」席について渡された食器をもつ。
料理はパンらしきものを煮込んだもので、すくって食べるとほんのり甘い味がした。
「ん。うまい」咀嚼して飲み込むサノトを、美人さんは対面に座ってにこにこ眺めていた。
さっきの空もそうだけど、こんな美人をひねり出すなんて本当によくできた夢だ。案外おれ、クリエィティブな仕事とか向いてたんじゃないかな。
「夢の中とはいえ、ひとの手作り食べるのなんて久しぶりだ。やっぱてづくりうまいね」
「喜んでくれたのならなによりだぞ」
「やさしいねー美人さん。
人間、精神が参っちゃうとこんな夢見るんだね」
「そうだな。お疲れ様だぞ」
「ありがとー」
とりとめのない会話をして、ゆっくり料理を食べ終えるとだんだん眠くなってきた。
夢の中で眠くなるなんて不思議だけど、ようするにこれが目を覚ます予兆なのだろう。
「美人さんの言う通りだ。夢でごはんを食べると目が覚め始めるんだね」
「眠そうにそのセリフを言うのはちぐはぐだな」
「はは。そうだね」
「眠いなら寝て良いんだぞ」
「うん。そうする。ベッド借りて良い?」
「いいぞ。好きなだけ寝ていると良い」
「うん。ありがと」
席を立って再びベッドに向かうと、ごろりと転がり天井を仰ぐ。
寝転がったサノトを追って美人さんが近づいてくると。「おやすみ」シーツを肩まで引っ張ってくれた。
「優しい夢だな。さめるのもったいないって思えてきた」
「そうかそうか。それじゃあいつまでも見ていればいい。好きなだけ付き合ってやるから」
「うん……ありがと……」
うとうと、意識が船をこぐ。こっくり、顔がかしいだとき。「おやすみサノト」もういちど、眠りを労う声が聞こえた。
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