「あ、あ、あの……どちらさまですか?」
大混乱に陥りながらも、かろうじて紡いだ言葉に、「忘れたのか」相手が苦笑を浮かべる。
なにを?俺何を忘れたの?
検討がどこにもつかなくて、ますます混乱してしまう。
「す、すみません。俺、酒飲むと記憶飛ぶタイプで……」
「そう青ざめるな。大したことじゃない。
ただ、昨日、お前が外で飲んている時に知り合って、一緒に飲んでいたらお前が店の中で倒れてしまったから、うちに連れて寝かせただけだ」
「えっ!」思わぬことに驚いたが、……よくよく考えれば、今までにも何度か、似たようなことがあったので充分にありえる話だ。
けど、店の人はともかく、見ず知らずの他人を巻き込んでしまったのは初めてだ。
「す、すみません!ご迷惑をおかけしました……!」
ベッドの上で土下座すると、「良いんだ。好きで連れてきたんだから」美人さんは親し気に許してくれる。
なんて良い人なんだ。顔の造形って人格にも表れるのかな。
「ほんとにすみません。あ、そうだ。たくさんは払えないけど、お詫びにお金を。迷惑代で……」
「いや。そんなことしなくていいぞ」
「いえいえ。気持ちなんで受け取ってください」
財布を取り出し中身を取り出そうとして、「あ」うなる。手持ちがほとんど尽きていた。代わりにレシートがたっぷり入っている。ほとんど酒に使ったみたいだ。
「たびたびすみません。思ったよりお金残ってなかったんで、ちょっと下ろしに行っても良いですか?」
慌てて弁解すると、相手が困った風に笑った。呆れられてしまったのだろう。
「すみません……」度重なる不手際に落ち込みそうになるが、「あ、いや。すまない。呆れているわけじゃないんだ。そうじゃなくてだな……」美人さんがサノトの目の前で手を振り、しばらくあごを傾げてから「ええと、その、下ろしにはいけないと思うんだ」探りだすように言った。
「え?なんでですか?コンビニ行けばすぐですよ?」
「コンビニで金が下せるのか?それは便利だな……あ、いや。えーと。そういう問題ではないっていうか……」
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