猫汰は、そうっと、魔法の材料が並べられた棚に近づくと、真っ暗なままのリビングの中、スマホの明りだけを頼りに、材料をひとつひとつ手に取って比べた。

「ハシノビ……ハシノビ……あった!」

間違いなく、「ハシノビ」とラベルされたビンを見つけ、猫汰は喜びにわいた。

これさえあれば!あの男の子を俺のものに出来る!

早速、ハシノビの入ったビンのフタをあけ、あらかじめ用意しておいた袋の中に、中身を全て移しいれる。

そして、兄に見つかる前に光貴のところへ避難しようと、玄関に向かった。その時。

「やっぱりね」暗かったリビングに、突然照明の光が現れる。びくっ!と振り返れば、出入り口に兄がもたれかかっていた。

いつのまに。という言葉をごくっと飲みこむ。

「お前があんな風に癇癪を起して、なにも解決しないまま頭が冷えたことなんて今までなかったからね。どうせ光貴のところにでも駆け込んで、惚れ薬の作り方を聞いて、レシピあるけどハシノビがないとでも言われたんだろうと思ってたんだよ」

全部ばれてる!!

「だから、あらかじめ、お前が風呂に入ってる間に、ハシノビの中身を取り替えておいたんだよ。猫汰、それ、ただのローリエだから。本物はこっち」

そう言って、兄が自分の服から、干し草の入った袋をひらひら見せてくる。

「ええ!?」今しがた盗み出したばかりのハシノビ、ではなく、ローリエの入った袋を取り出してから、わなわなと震える。

「ふざけんな!!」ローリエの袋を床に叩きつけると、出入り口にもたれる兄の元へ詰め寄り、力づくで腕を伸ばした。

「それちょうだいよ!ちょうだいってば!しおりちゃん!!」

「だめ」短い言葉と共に、ぐるん!と半回転させられ
そのまま上から抑え込まれた。お互いさほど体格差はないはずなのに、昔からどうしてか兄に腕力でも勝てない。兄いわく、「これは腕力じゃなくて技術だよ」らしいが、そんなことはどうでもいい!

「ばかーーーーーー!詩織ちゃんのばかーーーーー!」兄の下で散々もがいてわめきながら、猫汰は年甲斐もなく泣き叫んだ。

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