店を出る直前。「みつ!俺がハシノビを手に入れたら、他の材料は分けてね!」念のため約束を取り付けておく。
「それは良いけど……」光貴が、ややたじろいだ様子で付け加える。「ハシノビはどうするんだ?」
「それは今からなんとかする!」しっかり宣言すると、猫汰は再び、夜の町を駆け出した。
目的地は……自宅だ!
*
魔法使いは大抵、自分のアトリエを持っていて。光貴の場合それが店と兼用している。
そして、猫汰の場合は自前のものを持っておらず、兄のアトリエを借りている。
アトリエには大抵、魔法に必要な材料がそろっており、それは兄とて例外ではなかった。
ちなみに兄のアトリエは、猫汰と一緒に暮らしているマンションのリビングだ。だから、もしかするとハシノビはそこにあるかもしれないと思い至った。
兄ほど勤勉な魔法使いならば、たとえそれが貴重なものでもそろえている可能性が高い。
猫汰は早速マンションへ戻ると、自分の部屋まで足早に戻り、突然でていってしまった弟を心配そうに出迎えてくれた兄に「ごめんなさい」としおらしく謝罪した。
「さっきは叱られてかっとなっちゃったけど、しばらく頭を冷やしたら詩織ちゃんのいう通りだなって思って……ほんとにごめんなさい。もうわがまま言わないから」
猫汰の謝罪に、「そう、それならいいんだよ」兄は安堵した顔を見せた。その顔を見て、してやったりと、こころの中だけでほくそ笑む。このまま油断させて、兄のアトリエからこっそりハシノビを探そう。
表面上良い子のままを保ちながら、猫汰は兄と遅い夕食をとり、風呂を済ませると、就寝のためお互いの部屋に入った。
その、2時間後を見計らって、猫汰はこっそり、自分の部屋から抜け出し、忍び足でリビングに入る。
兄のアトリエは光貴同様、キッチンと兼用されていて、冷蔵庫や調味料を置いたラックなどにまじって、魔法に使う材料の棚が並べられている。
そして兄は几帳面なので、材料を入れた袋やビンの外に、きちんと材料の名前をラベリングしていた。あとはそのラベルを見比べて、ハシノビがあるかどうかを探すだけである。
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