そして、猫汰の姿を見るなり、「あ?猫汰?」すっと怒りをおさめ、代わりに疑問の色を示した。

「みつ!」その顔にすがりつく。「お願いがあるの!惚れ薬の作り方教えて!」

「ほれぐすりぃ?」なんのことだと、ますます首をかしげる相手に、猫汰は「惚れ薬を手に入れたいと思うまで」の経緯をまくし立てる形で説明した。

ちなみに、この店は表向き居酒屋だが、店主は猫汰と同じ魔法使いだ。彼の場合は、魔法を使って独自の食材を作り上げ、それを調理して客に提供をしている。これもまた異物混入ではあるが、「ここでしか食べられない味」と、贔屓の客にはもっぱら評判なのだ。

兄と同じく、魔法に精通している彼ならば、惚れ薬のレシピを知っていると踏んだのだが。

「あー……彼氏が欲しいから惚れ薬ねぇ」猫汰の説明に、兄と同じような難色を見せた。

「惚れ薬の作り方は知ってるけどな、そういう理由で使うのはお前のためにも……」

「教えてくれなかったらみつの店に火をつける」

「極端だなおい!?」

「いいでしょ?みつ稼いでるから再建なんて簡単だし、そもそも火をつけたって、店は魔法でどうにかできるんだから」

「出来るけどお前!近所迷惑を考えろ」

「みつだって俺の気持ち考えてよ!俺!彼のことが好きなの!どうしてもどうしても付き合いたいの!」

口論の末、しまいには猫汰のほうが高ぶってしまい、わっと顔を覆って泣き出すと、「おいおい、泣くこたないだろ……」光貴がおろおろし始めた。

「うーん……まあ、そうだな。そこまで言うなら教えてやるよ」

「ほんと!?」

「ただ、薄めて作れよ?こっちにちょっと目を向かせるくらいの容量で作れよ?お前は魔法でどうしても振り向かせたい、って思いこんでるけどよ、恋愛の切っ掛けなんてちょっとした心変わりくらいで充分なんだからな?」

「うんうん分かった!それで?材料は?」

「ほんとに分かったのかお前……まあいいや。ちょっと中入れ」

そう言って、光貴は猫汰を手招きすると店の中にいざなった。

そして自分だけ店の奥に入ると、数分後、ノートを数冊持って猫汰の元に戻ってきた。

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