その猫は、鏡の中で、豪星の動きに合わせて動いていた。右手を上げれば猫も右手を、左手をあげれば猫も左手を。
どう動いても、猫は豪星の動きについてくる。
数分ほどして。……まさか。という可能性に辿り着くが。現実味が無さ過ぎて受け入れられない。
だって、そのまさかが。
自分が猫になっているんじゃ?という、そんなバカなという憶測だったからだ。
けど、自分がもし猫になっていたのだとしたら、彼が豪星を抱きかかえたのも、ケージに入れたのも、全て納得が行く。いくけど……のみこめないー!
おろおろしている豪星の前で、イケメンは鏡を同じ場所に片づけると、「君が猫になってるの、分かった?」と、豪星の憶測をまるで真実のことのように言った。
「そ……そんなバカな。人間が猫になれるわけがないです」
信じられなくて、つい、独り言じみた反論をすると、イケメンは特に気を害した様子もなく、「だよねー?信じられないよね?」と笑った。
「けど、ほんとなんだよね。今君は猫になっていて、なんで猫になったかっていうと、俺が君に猫になる薬を吹きかけたわけで。どうしてそんな薬が俺の手元にあるかっていうと、俺が現在に生きている魔法使いだからでーす」
「???」どれも理解できない。おろおろが増すばかりだ。
「けどまあそんなのすぐ分かんないよね。だからちょっと、俺の方でも見せてあげる」
そう言って、イケメンはさっきのスプレーを取り出すと自分の顔に吹きかけた。すると、彼の姿がみるみる変形し、瞬く間に、彼のいた場所に、着る人間のいなくなった服と、真っ白な猫が現れる。
その白い猫は、豪星の入っているケージにすすっと近づくと、「どう?自分が猫になってるのは信じられた?」イケメンと同じ声を発した。
「…………あの、えっと、はい、猫になったのは分かりました。
分かったので……俺をもとに戻してください」
涙声で訴えると、イケメンもとい白い猫は、「うんいいよー」あっさりと頷いた。それから、部屋の隅まで移動し、床においてあった器の中身をぺろりとなめる。すると、再び白い猫が変形し、裸のイケメンが現れた。
「ぷはー、変身って久しぶりにやったけど、結構つかれるよね」
イケメンは、床に落ちていた自分の服を持ち上げ着なおすと。「あの器に入ってる薬を飲めば人間に戻れるよ」と言った。
「じゃあ!それください!」思わずケージに突撃した豪星に、人間に戻ったイケメンは片手を振って見せた。「たーだーしー」
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