口臭や香水用に使われそうな容器で、豪星はその類の道具を持っていないし持ち歩いてもいない。だからどう見ても豪星の落とし物には見えない。

「これは俺の落とし物じゃないですけど……?」落とした人を間違えたんじゃないですか?と、遠回しに尋ねると。

「やだー、引き留める口実に決まってるじゃない」イケメンは、けらけら笑いながら、意味のよく分からないことを言った。そして。

突然、そのスプレーを豪星の目の前にかざした。「うわっ!」プシュっと音を立てて、中身が豪星に顔に吹き付けられる。いきなりなにするんだ!と、言おうとして、叶わなかった。

「…………!?」強烈な眩暈に襲われたのだ。ぐらぐらと視界が揺れて、次第に、自分の視線が落ちていくような感覚に囚われる。

「う……う……っ」唸っている内に眩暈は落ち着いてきたが、落ちた視線の感覚が元に戻らない。……というか、なんだろう。手足の感覚もおかしいような……。

まだわずかに、くらくらしている豪星を、その時誰かがひょいと抱き上げてきた。

びっくりして上を見ると、そこには、例のイケメンのにっこりとした笑顔があった。

彼に抱き上げられたという理解と、いや物理的に無理だろという疑問がせめぎあって、豪星の思考を破壊する。

固まっている豪星を抱っこしていたイケメンは、「よーし、おっけー」豪星を抱っこしたまま少し歩くと、コンビニの前に置いておいたらしい、ペットを入れるケージのようなものの中に豪星を放り込んだ。

なんで俺、そんな小さなものの中に入ってるの??という疑問も、破壊された思考のままでは解答に至らない。

引き続き、ケージの中でも固まっている豪星を、イケメンはケージごと持ち上げると、豪星に行先を告げないまま、鼻歌交じりにコンビニを後にした。



コンビニから離れて、しばらくイケメンが道を歩いて、どこかのマンションのエレベーターに乗って、どこかの部屋に入った。

部屋の中には、室内犬を飼うためのケージよりもちょっと広めの柵が置いてあって、豪星はケージからそちらに移されると、目を白黒させたまま、目の前のイケメンを見上げた。

イケメンは、部屋に立てかけてあった姿見の鏡を持ち出してくると、「はーい、見てみて。今の君の状況」それを豪星に見せてきた。

そこには、青色の猫が一匹映っていた。この部屋で飼っている猫かな?と思いきや。

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