魔法使いとは、世界中に発生した魔法使いの始祖から始まり、現在では昔ほどの技術はないが、魔法という奇跡を生業とする人種のことである。

そして神崎猫汰は、魔法使いのはしくれである。

なぜ、猫汰の肩書に「はしくれ」が付属するかといえば、猫汰があまり「魔法使い」というものにこだわりがないからだった。

それもなぜかと言えば、スマートフォンも売れ残る時代に、そもそも魔法使いとは古風すぎるきらいがある。端的に言えば「今時魔法使いってさぁ(笑)」という嘲りが理由だ。

というわけで、猫汰は「面白そうだと思った魔法」は少し使えども、それを探求したり誇りにしたりはしない。ちょっと奇跡が起こせるだけの一般的な男子高校生を満喫している。

その点、猫汰の兄は違う。魔法使いであるこを誇りに思ってはいないけれど、魔法の探求には熱心だ。

兄いわく、「それがビジネスにつながる」からだそうだ。

兄はそこそこ大きな美容会社の幹部を務めていて、彼はその事業展開を、魔法を使って支えている人だった。

これも兄いわく。

「例えばね猫汰。僕が魔法を使って、人の心を変える奇跡の薬や花粉症を治す奇跡の薬を作ったとするじゃない?
でも、それを、うちの会社が出している商品の中には混ぜられないわけ。中世や近世の時代ならまだしも、今は現代だからね。国の決める基準というのはとても厳しいんだよ。異物混入になってしまうのはまずい。
けど、例えばね。うちの会社がサロンを開いて、そこで化粧品や美容液の説明会を開くとするじゃない。お客さんに商品の説明をする際、お出しする珈琲に薬をいれるのは、法に触れないわけ。
珈琲じゃなくても、アロマオイルにまぜて部屋中にたいておくという手もあるね。
そうすると、肌に悩んでいるけど、使ったことのない化粧品を使うにはまだ抵抗がある。けど説明だけは聞いておくか。と考えているお客さんの心が、人の心を変える奇跡の薬の効能によって明るく開いて、商品をスムーズに買ってくれるわけね。
そしてお客さんは化粧品を使って肌のトラブルを解決し、うちの事情も潤う。魔法使いとしていえば、魔法で人の幸せに貢献できるなんて冥利につきるし、現代風にいえば、まさにウィンウィンなんだよ」

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