気づいていないのか?いや、部屋の中にいればそんなことは……。
表札も番号も、間違えてないはずなんだけど。あ、もしかして、豪星かもしくは相手が時間を間違えて、留守にしているんじゃ……。
試しに電話を鳴らしてみる。が、こちらもつながらない。
おかしいなぁと、何気なくドアノブを掴んで。
「……あれ」すっと、扉が開いたことに驚いた。てっきり施錠に阻まれると思っていたのに。
……ええと。
数センチ開いた扉の隙間の前に佇み、なやむ。
これ、入っていいのかな。それとも引き返すべき?
でも、電話繋がらないし、買ったケーキどうしようだし。
お礼のケーキ持って帰って食べちゃうのもな……。
うーん……。
数分悩んでから、「とりあえずケーキだけおいて帰ろう」と決断する。
中に彼が居れば、謝ってよし。でかけていれば、あとで電話をかけなおしてから、謝ってよし。
あれだけ出来たひとなのだ。このくらいのことでは腹は立てまい。
とはいえ。
「おじゃましまーす……」
勝手に人のうちに入る引け目には勝てず、そろそろ、空き巣のように足取りになってしまう。
清潔な廊下を渡り、広々としたリビングに出て、ちょうど入口から反対側にあるキッチンのそばで冷蔵庫を見つけると、「おじゃましまーす……」またこっそり扉をあけて、ケーキを箱ごと冷蔵庫へしまいこんだ。
やれやれ。これで目的は達成したぞと。一息ついたのもつかの間。
「……ん?」リビングの向こうで物音が聞こえ、振り返る。家鳴りかと思ったが。
「!」連続で、今度は大きな音が聞こえた。大きなものが落ちるような音。追うようにして、人の咳き込む音も聞こえてくる。
まるで人が倒れたような……倒れた!?
まさか、彼は体調不良で応対が出来ない状態だったんじゃ!?
数秒の間に第三の可能性をめぐらせ、急いで音のした方へ駆け込む。
部屋の扉を開けて「神崎さん!?」中へ飛び込むと、案の定。ベッドのそばで、家主がぐったりと倒れていた。
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