そのあと、イケメンな青年こと、神崎猫汰(かんざきねこた)さんは、豪星の面倒をかいがいしく買ったあと帰宅し、その次の日も次の日も様子を見にきてくれた。

豪星に住所を聞いて、携帯を持っていない父親に豪星の容態を伝えてくれただけでなく、着替えなども運んでくれる、まさに至りつくせりだ。

数日後、退院した時。豪星はなにかお礼を出来ることはありませんかと彼に伝えた。

運よく、とても良い人に助けてもらったとはいえ、善意に甘えてばかりではいられまい。大金のかかることはできないけれど、せめて気持ちの上だけでも、彼になにかお返しがしたかった。

そう伝えると。神崎猫汰は。

「…………」

ふと真顔になってから。にっこり笑った。

「それじゃあ、明日うちにきてよ。君の退院をお祝いしよう。
そのとき、手土産にケーキをもってきて?それが、お礼ってことにしようよ」



買ってきたのはチーズケーキとシュークリームとショートケーキを二つずつ。こんなものでいいのかなぁ。

一応、父親にも、どんなケーキ買っていけばいいか聞いてみたけど、野郎二人でスイーツバイキング状態になってもねーと言われたので、無難なものにしてみた。けど、やっぱりプリンとかもあったほうがよかったのかなぁ。

とはいえ、買ったあとではいくら悩んでも仕方がない。

ここはちまちま考えず、これが手土産だと胸を張っていくしかない。

箱を持ち直して、神崎猫汰に教えてもらった住所に向かう。

辿り着いたのは、30階ほどある高層マンションだった。常に地面と仲良くしている豪星の安アパートとは家賃が高さほど違うだろう。

イケメンで性格良くて金持ちなんだな……と、自分との格の違いにちょっとへこみつつ、とぼとぼ、マンションの中へ赴く。

管理人に事情を話して入れてもらい、エレベーターに乗って彼が住む7階の一室へ向かう。

扉の前までいくと、来訪を告げるため呼び出しのベルを押してしばらく待機する。が。

「……あれ?」

応答の返事がいつまで経っても返らない。変だなと思いつつ、二回、三回ボタンを押すが、扉の向こうは沈黙したままだ。

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