「あ、起きたの?」
病室の向こうから扉のひらく気配がした。はっとして振り向くと、豪星と同じ年かさの青年が立っていた。手には缶ジュースとお茶のペットボトルを持っている。
「よかった。大丈夫?きみ、一時間くらい意識がもどらなかったんだよ」
青年は、にこにこ笑って豪星に近づくと、豪星の横たわるベッドの下からパイプ椅子を引き出した。「よかったねぇ、目がさめて」顔をのぞきこむ、その顔をみた時、つい顔を逸らしてしまった。
すごくかっこいい人だった。肌も髪もつやつやして、不思議と良い匂いがする。
とろけるような猫目で見つめられると、すごく照れくさい。不躾ながら、「す、すみません。助かりました。どうもありがとうございます……」顔をそらしたままお礼を言うと。「どういたしまして」と、返って……こなかった。
失礼な態度に怒らせてしまったのかと、慌てて謝罪しようとしたが。
「う、!?」
顔の位置をもとに戻したとたん、目と鼻の先にまで相手の顔が迫っていた。至近距離で目が合い、凝視される。
「あ、あの……?」たじろぎながら顔をひくと、「あ、ごめんごめん」相手の手がまぶたに触れる。
「まつ毛にほこりがついてたよ」
「あ、すみません」
「いいえー」イケメンな青年は、ぱっと手を宙に振ってほこりを落とすと、再びパイプ椅子に戻って座りなおした。
「そうだ。お腹すいてない?先生がね、ケガの後は食欲があっても、半日くらいは安静にしておいたほうがいいから、食べるならゼリーがいいでしょうって言ってたから、買ってきたよー」
「そんな。わざわざすみません」
「いいのいいの。一期一会って言うでしょ?俺も、もし、君みたいにどっかで突然ぶっ倒れたりした時に、誰かに助けてもらえるよう、今の君を大事にしないとねー」
コンビニの袋をかさこそさぐり、まるで聖人のようなことを言う青年の姿勢に感動してしまう。
同じくらいの歳で、こんなに性格の良い人っているんだなぁ。しかもかっこいいし。完璧とはこのことだ。
それに比べ、悩んでいたとはいえ前方不注意で派手にすっころんだ自分の、まあ情けないこと。
6>>
<<
top